4
「当てたはずだがな」
オキシが呟く。
場所は魚藍坂の頂上。
横にはスーパーとアパートが存在する。
そこから彼女はナイフを投げた。
墓藹が予測していた無精者というものは正解。
だがオキシは墓藹とは違い、右腕に精と武器を隠し持っていた。
その分体力は劣ってしまうものの、精自体は有限ではあるが持っている。
現時点では有利。
だが、
「そこに、いらしたんですね」
物凄いスピードで苦無が、オキシの頬を掠めた。
これが下にいる無精者だと言うことに、最初は気づかなかった。
が、頬の血、震える腕。五感全てが彼女に悟らせた。
本気で行くしかないと。
自分がどれだけ弱いのか理解している、受け入れてるからこそできる芸当。
無精者の間でも、シンパシーは存在した。
「…面白い」
そしてオキシは、9本のナイフを取り出し、精で覆った。
それはまるで空中を浮遊しているかのよう。
その後墓藹にはそれらが消えたかのように思えた。
が、横からの襲撃。
キィン
かろうじて武器で受け止める。
「じゃあこれはどう?」
今度は四方からナイフが飛んできた。
どこかを捨てるか、そう思いきや、
キィン
四つのナイフが同時に先端で交わった。
墓藹はただ斜めへ足をすすめたのみ。
「避けたか」
遠方から見ていたオキシは驚くこともなく坂の下へと足をすすめる。
墓靄はそれが到着するのをゆっくりと待つ。
ザッ
二人の足音が止まる。
間の距離は20m程か。
「ひとつ聞こう」
「なんでしょう」
「お前、無精者だよな?」
オキシが問う。
本来ならば分かりきった質問。
だが彼女は感じたのだ。墓靄の後ろにある気配を。
「はい、そうですが……」
墓靄はキョトンとした顔で答える。
まるで自身に自信がないかのように。
「…ならいい」
頭をよぎった考えを捨てることができず、だが自分には戦うという使命があるという事を思い出し渋々と戦闘態勢をとる。
墓靄は苦無。
オキシはナイフ。
どちらも精が存在する世界では使わないもの。
だが戦う術など、彼女らにとってこれくらいしかなかった。
しかし、
ダッ!
墓靄はコンクリートの硬い地面を蹴り、自分から見て左手にあるSAPIXという塾の建物に入っていく。
「隠れる気か」
だが走って追うようなことはせずオキシはゆっくりと歩く。
そこは五階建以上であり、探すのは一苦労。
精のないものにとっては。
白く光が煌めく受付の左手にある階段で上階から探そうとする。
が、墓靄がいるのは地下のトイレ。
そこで、彼女はうめいていた。
「まだ、まだ………出てこないでぇ……」
どこを覆うかもなく彼女は便器に座りながら呻き声を漏らす。
オキシの勘は、当たっていた。
「ここにもいないか」
幾つになるかもわからない教室を開ける。
もう警戒の精は止まっており、今彼女はただの人間の状態。
が、それでも真下から気配がした。
人間なのに、だ。
先ほど感じた、墓靄の後ろのモノ。
まさかと思い、精を体で覆うと…
グギャァァァァァ!!!!
という化け物の声が聞こえた。
そしてその主は近づいてきている。
「……!」
身の危険を感じたオキシはナイフを取り出し階段へと向かう。
そして手すりに腕をかけた瞬間、
バギバキィ
と段差が粉々になり、下から化け物が現れた。
それは巨大な蛇のようなもの。
空を飛んでいるので龍と言ってもよい。
大きな頭から判断するに胴体は6階分の長さがありそうなほど大きく長い。
口は大きく開かれており、その中には凶器とも思える歯が思いっきり開かれている。
その口の中で粉々にされる予知を、オキシは一瞬のうちに見た。
ゾクゾクッ
「いやぁぁぁぁぁ!!!!」
狂乱しながらありったけのナイフを服の中から取り出し、その龍へと投げつける。
ザクザクザクッ!!
一本が運良く目に刺さったおかげで、龍は踊るように胴体をくねらせ、建物を破壊していく。
グギャァァァァァ!
その爆音の中、オキシはようやくコンクリートの道へと足をかけることができた。
浅くも被害を受けた龍は、一通り暴れた後、白く変色した目と反対側の紫色の目を目一杯見開き、空を飛びオキシへと攻撃の焦点を当てる。
ヒュッ
ドゴォン!!
頭を地面に打ち付けるというだけの攻撃でも、道が深く割れる。
ソレを避けたオキシは、導くように元々いた白金高輪の駅に一番近い右手にある遠方の入り口を目指して走り始める。
(目的はわからん、あの女が降隣させたのかもわからん。だがこの気配は間違いなくあの時感じたものと同一。速く倒さなければ)
そんな考えが浮かぶ中、龍は怒りのままについていく。
だが、彼女はあることについて考えるのを忘れていた。
それはこの戦いに置いて一番重要であり、先ほどまでの戦いにも関する、
「あの女は、どうなったんだ?」
そしてオキシは、足を止めてしまった。
もしもこの龍が彼女自身だったら…
そんな考えが頭を巡る。
墓靄が無精者であったことから、九分九厘の可能性で、そうでないとは断言できる。
が、残りの1厘。
いつもなら切り捨てるソレが、回路を止めた。
元々殺す筈だった相手を、今は助けようとしてしまっていた。
助けよう。
もしこの判断が間違っていても、後悔はしない。
龍の牙は、もう彼女の体を包んでいた。
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