単独行進
生死の記
1
「ふぁぁぁぁ....、今日も暇ね」
森の中を歩きながら一人の少女がつぶやいた。
服は全体的に黒によっており、ところどころに黄色の装飾が施されている。
また背中には大きな鎌があり、まるで跫音を上げているかのように負のオーラを放っている。
「まあ、目的を達成するためならいいかー」
目的、それは言うまでもなくクラのものであろう。
彼女は彼女なりに、頑張ろうとしていた。
「いつの間にかこんなところにまできてしまいましたね」
森の中を歩きながら一人の少女がつぶやいた。
服は全体的に白によっており、ところどころに青色の装飾が施されている。
また背中には一本の棒があり、隠す事なくオーラが溢れ出ている。
「アカさんのためにも、頑張らなくちゃ」
こちらも目的を持っている、引くにも引けないものが。
だから、戦わなければならない。
自身の大切な人のために。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
こちらの世界は延々と暗いので、時間という概念がないのかもしれない。
が、揺れる少しの草木のみが、時間が経過していることを教えてくれる。
そんな穏やかだった暗闇の中で、二人は出会った。
「......おなまえは?」
「......そちらからどうぞ」
突然の出会い、しかもお互いは20mほど離れている。だと言うのに、両者は互いの息遣いに極限まで意識を集中させ、隙を見つけようと必死になっている。
「....私はかん...」
ガッ!
名前を問うたものが、早くももう片方に襲いかかった。
「...早漏?付き合えきれませんね」
「...フン...」
そしてすぐに組み手を解く。
またもや間の探しあいだ。
「私の名は款、あなたは?」
「...福のフィソファ」
どちらも警戒の念を怠る事なく、だが少し手を引っ込めながら話を進める。
「あなたは、精霊ご自身ですね」
「よくわかるわね、ご名答よ。あなたは...違うみたいね」
「ええ」
「ひとつ聞いてもいいかしら」
「なんでしょう」
「剕、という者を私的に探しているんだけど、知っていたりする?」
「......真実を知りたもう神よ、彼女に栄光を与え給え」
煽るような祈りに款は乗ることもなく、答えはノーだと自身の頭の中で答えを出す。
「では、始めますか」
「ええ」
ヒュッ
風が両者の脇の間をすり抜ける。
実力は同じ程度か。
理由は無いのかフィソファは丁度両者の距離の真ん中に青色のコインを投げ込む。
「フッ」
そして、火花が散った。
一瞬の内にぶつかり合った武器は些細も動くことなく均等を保っている。
が、リーチにはかなりの差があり、款の鎌の先が少女の頬に小さなかすり傷を入れた。
「.....チッ」
舌打ちをしたのはどちらだったか。
そのまま武器を離すと、款の圧倒的な蹂躙が始まった。
フィソファが棒を後ろへ回した隙に右足をあげ、奥へと吹っ飛ばす。
そしてその速度が如何様でも着いていくとでも言うかのように自身の力ですぐに彼女の横へと飛び、地面に対して直角に足を振り下ろす。
ドゴォ...
凄まじい音が森の中に響き渡る。
これを受けてしまえばどんなものでもひとたまりもないのは一様だ。
フィソファは運が良いのか咄嗟に左に体を動かした事が功を奏し、だが飛び散った岩石は無情にも塞げない。
体中にかすり傷を負いながら強がりかすぐに立ち上がる。
先程まで白かった服は自身の血と土で汚れている。
ここで、彼女の意識は精場へと飛んだ。
「お前がこんなにやられるなんてらしくねぇな、フィソファ」
「うん、相手、とても強いです」
フィソファの精場で、彼女は生神と対話を交わす。
形は通常の円形、目を見張るべきところは、白い閃が一本あるところか。
他には何も無く、ただ動かず真ん中で境界が切れている白い扇の部分に立っている。
「どうする」
ただの問い、だと言うのにそこには神ながらの威厳があった。
「....貸してください」
「そう言うと思ったよ、ま、オレもお前に死なれちゃあ...な。だが、もう祈っちまったんだろ?そこも少し課題だな」
と生神は七本ある円線のうち内側から三本目に立つフィソファをちらりと見る。
「.....ありがとう」
「んだ、お前が礼を言うなんて珍しいな」
「いえ、少し今回は本気で行くので」
「わかった、が、許さねえことは、分かってるな?」
「分かっています」
ここで精場での対話は終わり、意識は現実へと連れ戻される。
「強がりはやめなさい、死ぬだけよ」
款は武器すらも持たずに、よろよろと立ちあがったフィソファへと近づく。
「フン、私が強がっているように...ミエルカ?」
不気味な言葉の気を後に残しながらフィソファはよろける体をピンと立たせ、背中の棒に手を伸ばす。
「...ここからは、条件を入れます」
「わざわざ言うと言うことは、これも条件?」
「その通り、条件を話すこと、これが第一です。そしてそれについてくるのは、会話一つごとに私の精霊生神と意識を交換すること」
「...それには、裏があるな」
「そこまで言う気はねぇよ」
「...」
もう始まっている、その事実だけで十分だと款は思う。
最低でも二回に一回は同じ精霊の攻撃が飛んでくる、そう考えるだけで、昔すらをも忘れてしまいそうになる。
あの、何もなかった、退屈な日々を。
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