プロローグ/第一章 メラニー・スチュワート
その日、
今日の主役となるジュリアンとエミリアは美男美女のカップルで
サラサラと流れる金色の
対するエミリアは赤い巻き髪が
そんな
「
「でも、あのスチュワート家が婚約破棄を
「あら、ローレンス家の娘がジュリアン様を
「あの美貌なら男の一人や二人簡単に落とせただろうな。どうせ、公爵家の金が目当てなんだろう」
様々な
そんな彼らの前に、ジュリアンの友人である青年がワイングラス片手にやって来た。
「よう、ジュリアン。それと麗しのエミリア嬢。この
「
そう言ってジュリアンはエミリアの
「やだ。ジュリアンってば、
「おや、エミリア嬢はそのスチュワート家の娘と親しかったのではないのですか?」
「あの子が独りぼっちだったから仲良くしてあげただけですわ」
「エミリアは
「公爵家嫡男の婚約者の
「蛇?」
「メラニーの使い魔だよ。白い
「碌に魔力もない癖に使い魔を
「魔力がない? スチュワート家の娘なのにか?」
青年が
「あら? 知りませんでした? あの子、魔法学校にも通えないほどの落ちこぼれでしたのよ」
「その通り。あの女は貴族としても、魔術師としても落ちこぼれだったんだよ」
次から次へと元婚約者への
「……そんなに問題のある令嬢だったのか」
「どうした? なぜ、そんなにメラニーのことを聞きたがる?」
「まさか、メラニーに興味があるの?
「なんだ、聞いていないのか?」
「何をだ?」
「そのメラニー嬢が、この国一番の
「「えっ!?」」
● ● ●
メラニー・スチュワートは国内でも有名な魔術師の家系であるスチュワート家の娘である。
年は十七歳。
メラニーには同い年のジュリアン・オルセンと言う公爵家の婚約者がおり、数年後にはそのジュリアンと結婚する予定だった。
それなのにだ。
「メラニー。僕は君との婚約を破棄して、エミリアと婚約することにした」
婚約者であるジュリアンは
それはとある貴族の
彼女の姿を見てメラニーの
美男子のジュリアンと、美しいエミリアが並ぶとそれだけで絵になるようだったが、ジュリアンはメラニーの婚約者であり、しかもエミリアはメラニーの友人である。その二人がなぜ愛おしそうにお
メラニーが
「ごめんね、メラニー。私、ジュリアンのことを好きになってしまったの」
口では謝っているが、どう見ても彼女は笑っていた。そんなエミリアの
「こんなことになって君も驚いただろう。でも、わかってくれ。魔力も碌にない君より、魔術師として将来有望なエミリアの方が公爵家の婚約者として相応しいんだ」
それはあまりに身勝手な言い分だった。しかしこの時、ショックのあまり何も言い返すことができず、結局このままメラニー・スチュワートとジュリアン・オルセンとの婚約は破棄されることとなったのだ。
そもそも、
婚約者として選ばれたメラニーは生まれつき魔力をほとんど持ち合わせていなかったのだ。
基本的に魔力は主に親から子へと代々受け
だがスチュワート家の権力を望んだオルセン家はそんな落ちこぼれのメラニーを受け入れ、結局婚約は結ばれたのだが、当事者であるジュリアンは不満たらたらであった。
メラニーもメラニーで顔は良くとも自分を
そもそも、頭も良ければ顔も良いジュリアンは昔から周りの
それでも一度決まった公爵家と侯爵家という家柄同士の婚約はそうそう無かったことにできるものではない。
それに公爵家に
しかし、無情にもジュリアンはメラニーに婚約
一方的に婚約の破棄をしようとするジュリアンもそうだが、その
引っ込み思案なメラニーにとってエミリアは心を許せるかけがえのない友人で、そんな友が自分を裏切ったことが余計にメラニーの心を傷つけていた。
エミリアの生まれたローレンス家は、最近になって男爵の爵位を得た新参者の貴族であった。新生
加えて見目
性格も明るく、自分の意見をきっぱりと言う姿は、大人しくて人の
過去にはジュリアンに好意を向ける令嬢に絡まれたとき、大人しいメラニーの代わりにその令嬢たちを追い
その時は、「メラニーも侯爵家の
(ひょっとしたら、エミリアもジュリアンと同じで、何の取り得もない私を
婚約者と親友の二人を一度に失い、あまりのショックに数日
正式に婚約の解消が決まった後、リビングに集まった家族に囲まれ、メラニーはしょんぼりと
「メラニー、そんなに気を落とすことはないよ。あんなクソみたいな男にメラニーは相応しくなかったんだから」
メラニーの二つ上の兄が言えば、隣に座った一つ下の妹が大きく
「ええ、お兄様の言う通りですわ。あんな顔だけの男のところに、お姉様が
「メラニー。あんなつまらない男と婚約をさせてすまなかった。最近の公爵家は魔術だけでなく、人間も
「そうね。あんな
ここぞとばかりにジュリアンとオルセン家をこき下ろす家族に、メラニーは落ち込んでいる自分を
「お心遣いありがとうございます。……でも、私、これからどうすればいいか……」
公爵家との縁談がなくなり、今後の自分の将来について考えると泣きそうになった。
再び、縁談を望んだとしても、
そう考えると両親が決めてくれた良縁をみすみす破談にさせてしまったことが申し訳なくて、この場にいることすら居た
「すみません。泣き言を。……私、お部屋に
メラニーは込み上げそうになる
● ● ●
「……メラニー」
メラニーが退出した後、残った家族は顔を見合わせて
「あれは相当
「
「うーむ。魔力のないことに引け目を感じているメラニーのためと思って受け入れた縁談だったんだがな。今回のことで余計に自信を無くさせてしまったかもしれないな」
「あの子も周りの声を気にしすぎる面があるものね。思い
● ● ●
婚約解消が決まってから数日後。
メラニーはいつものようにスチュワート家の知の宝庫と呼ばれる書庫室に
書庫には古い書物がたくさん並んでおり、中に入ると、カビ
メラニーはずらりと
その棚の中から読みかけの本を一冊手に取ると、ざらざらとして今にも破れそうな紙を
こうやって魔術の本を読むことは魔法が使えないメラニーにとって、魔術に
それは優秀な魔術師の家系であるスチュワート家の娘としての
そもそもメラニーの生まれ育ったフォステール王国は、魔術によって発展してきた国である。国の周りには
スチュワート家はその中でも伝統ある魔術師の名家として知られ、例にもれずメラニーの兄や妹は生まれながらに魔力量も多く、魔術を学ぶ魔法学校でも優秀な成績を収める優等生であった。
しかし、メラニーはそんな兄妹とは違い、魔法学校にも入学することができない
幸い、家族はそんなメラニーを愛情深く育ててくれたが、それでも小さい
魔法が使えないのならば、せめて貴族の娘として相応しくあろうと思い、メラニーなりに苦手な社交界にも参加してきたつもりだが、交友関係を
元々昔から勉強することは好きだったので、両親から
お
古代魔術はその名の通り古い魔術で、現代では消えてしまった魔術を指しており、今では好んで古代魔術を研究する魔術師はほとんどいないと聞く。それは古くからの魔術師の名家であるスチュワート家においても同じで、古代魔術を記した書物こそ大事に保管されているものの埃を
そんな古代魔術を紐解いたところで、きっと何の役にも立たないだろう。だからと言って
「……はぁ。私、これからどうすればいいのかしら」
メラニーがぼんやりと書物を
「あら、メルル」
視線を落とした先にいたのは、メラニーの使い魔である白い
その体長は優にメラニーの身長を
だが、キラキラとした宝石のような真っ赤な目を向け、クネクネと体を擦り寄せるメルルにメラニーはフフッと笑う。
「どうしたの? こんなところに来て」
メラニーは読んでいた本を
普段は部屋で大人しくしているはずのメルルが屋敷の奥にある書庫室まで来ることは非常にめずらしい。
メラニーが
「やぁ、メラニー。こんなところにいたのか」
「ダリウス
戸口から現れたのはメラニーの叔父のダリウスだった。
母の弟であるダリウスはすらりとした長身の、
「よくここにいるとおわかりになりましたね」
「メルルに案内してもらってね」
「まぁ。
「ははは。なぁに、
そう言ってダリウスはメルルに向かってポケットから取り出した肉の餌を投げる。
メルルはそれを器用に口でキャッチすると、
「ところで叔父様、私に何か
「うむ。姉さんから、君が
「……お母様が」
「
「……」
メラニーが
「なぁ、メラニー。気分
「え? 魔法学校ですか? でも、私、魔力もないのに……」
「なぁに。私の助手として事務仕事でもしてくれればいいよ。ここにいるよりよっぽどいいだろう。どうだい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます