プロローグ/第一章 メラニー・スチュワート

 その日、こうしやく家のちやくなんのジュリアン・オルセンと男爵家のむすめのエミリア・ローレンスのこんやくを祝うパーティーが開かれていた。

 今日の主役となるジュリアンとエミリアは美男美女のカップルではたから見てもお似合いの二人である。

 サラサラと流れる金色のかみと青く美しいひとみ、甘いマスクといったかんぺきようぼうに加えて、公爵家嫡男という地位を持ったジュリアンは、昔から多くの貴族れいじようにアプローチされるほど人気の青年だ。

 対するエミリアは赤い巻き髪がとくちよううるわしい令嬢で、彼女のようえんみとそのグラマラスなボディにとりこになっている男性は多い。

 そんなだれもがうらやむカップルだったが、そのパーティーに参加している貴族たちの視線はどこか冷ややかであった。それはこの主役の二人が婚約に至るまでのしゆうぶんが関係しており、参加者たちはしゆひんからはなれた場所でうわさばなしに花をかせていた。

こうしやく家の娘から男爵家の娘に婚約者を乗りえるなんてオルセン家は鹿なことをしたものだ。婚約されたスチュワート家がこのままだまっているとは思えないぞ」

「でも、あのスチュワート家が婚約破棄をしようだくしたということは、娘の方に問題があったのではないか? 確か、メラニーと言ったか? あまり目立たない地味な令嬢だったよな」

「あら、ローレンス家の娘がジュリアン様をそそのかしたんでしょう? なんでも侯爵家の娘とは親友だったらしいじゃない。親友の婚約者をうばうなんて、あの令嬢もよくやるわね」

「あの美貌なら男の一人や二人簡単に落とせただろうな。どうせ、公爵家の金が目当てなんだろう」

 様々なおくそくが飛びうなか、ちゆうの二人はそんな自分たちを取り巻く醜聞などまったく気にしていない様子でべったりと寄りいながら笑顔で参加者に対応していた。なんせ、二人は婚約が決まったばかりの愛し合うこいびと同士。周りの目など何も気にならない。それに流れている噂はおおよそ合っていることだったからだ。

 そんな彼らの前に、ジュリアンの友人である青年がワイングラス片手にやって来た。

「よう、ジュリアン。それと麗しのエミリア嬢。このたびは婚約おめでとう。まさかお前がスチュワート家の娘を捨てて、エミリア嬢と婚約を結び直すとは思ってもいなかったよ」

しよせんは親が勝手に決めた婚約だったからな。前々から不満だったんだ。メラニーとやっと別れることができて清々したよ。これもすべて、婚約破棄に協力してくれたエミリアのおかげだよ。やっぱり、僕にはエミリアのように美しく、じゆつの才能にあふれたかしこい女性が相応ふさわしいからな」

 そう言ってジュリアンはエミリアのこしき寄せると、うっとりとしたまなしで彼女を見つめた。

「やだ。ジュリアンってば、ずかしいわ。でも、メラニーがジュリアンとり合いだったことは本当よね。あの子にあるものと言えば侯爵家のいえがらだけでしたもの」

「おや、エミリア嬢はそのスチュワート家の娘と親しかったのではないのですか?」

「あの子が独りぼっちだったから仲良くしてあげただけですわ」

「エミリアはやさしいからな。あの根暗なメラニーに付き合っていたのは君くらいなものだよ」

「公爵家嫡男の婚約者のくせに、ろくに社交界に顔も出さずに家に引きこもっている子ですもの。私以外に友達もいないわ。あ、でも一人いたかしら。正確にはへびだけど」

「蛇?」

「メラニーの使い魔だよ。白いきよだいな蛇でな。しゆの悪い使い魔だった」

「碌に魔力もない癖に使い魔を使えきするなんて、生意気よね」

「魔力がない? スチュワート家の娘なのにか?」

 青年がおどろくのは無理もない話だった。スチュワート家と言えば、代々有名な魔術師をはいしゆつしてきた魔術師の名家だったからだ。

「あら? 知りませんでした? あの子、魔法学校にも通えないほどの落ちこぼれでしたのよ」

「その通り。あの女は貴族としても、魔術師としても落ちこぼれだったんだよ」

 次から次へと元婚約者へのぼうが止まらないジュリアンたちに友人の男はに落ちない表情で首をかしげていた。

「……そんなに問題のある令嬢だったのか」

「どうした? なぜ、そんなにメラニーのことを聞きたがる?」

「まさか、メラニーに興味があるの? めておいた方がいいですわ」

 しんに思ったジュリアンたちは顔をしかめ、青年に忠告した。しかし、青年は驚いた顔で首を横にって彼らに言った。

「なんだ、聞いていないのか?」

「何をだ?」

「そのメラニー嬢が、この国一番のきゆうてい魔術師、クイン・ブランシェット様と婚約したそうだぞ」

「「えっ!?」」


   ● ● ●


 メラニー・スチュワートは国内でも有名な魔術師の家系であるスチュワート家の娘である。

 はだは白く、明るい茶色のふわふわとした長い髪と宝石のような明るいグリーンの瞳を持った小柄な少女は、つうにしていれば可愛かわいらしい女の子であったが、極度の人見知りの上に、おびえたような態度のせいで周りに暗い印象をあたえる子であった。

 年は十七歳。

 メラニーには同い年のジュリアン・オルセンと言う公爵家の婚約者がおり、数年後にはそのジュリアンと結婚する予定だった。

 それなのにだ。

「メラニー。僕は君との婚約を破棄して、エミリアと婚約することにした」

 婚約者であるジュリアンはさわやかな笑顔を向けてメラニーに告げた。

 それはとある貴族のやかたで行われたパーティーでの一幕だった。パーティーの終わりにちょっと話があるからとジュリアンにさそわれ、ひとのない中庭に連れていかれると、そこにメラニーの親友であるエミリアが待っていた。

 彼女の姿を見てメラニーのうでを振りほどいたジュリアンはいとおしそうにエミリアの手を取った。

 美男子のジュリアンと、美しいエミリアが並ぶとそれだけで絵になるようだったが、ジュリアンはメラニーの婚約者であり、しかもエミリアはメラニーの友人である。その二人がなぜ愛おしそうにおたがいを見つめ合っているのだろうか。まるで恋人同士のようになかむつまじく寄り添う二人の姿にメラニーは混乱した。

 メラニーがじようきようについていけずにぜんとしていると、エミリアがジュリアンに腕をからませながら、そのつややかなくちびるを深い笑みの形にした。

「ごめんね、メラニー。私、ジュリアンのことを好きになってしまったの」

 口では謝っているが、どう見ても彼女は笑っていた。そんなエミリアの台詞せりふに続けて、ジュリアンも晴れやかな笑顔のまま言う。

「こんなことになって君も驚いただろう。でも、わかってくれ。魔力も碌にない君より、魔術師として将来有望なエミリアの方が公爵家の婚約者として相応しいんだ」

 それはあまりに身勝手な言い分だった。しかしこの時、ショックのあまり何も言い返すことができず、結局このままメラニー・スチュワートとジュリアン・オルセンとの婚約は破棄されることとなったのだ。

 そもそも、こうしやくであるオルセン家がこうしやくのスチュワート家にえんだんを持ってきたのは、強力な魔術師の一族として国内でも有数の権力を持ったスチュワート家の後ろだてを得るためであった。言わば貴族間の政略けつこんだったのだが、ここに一つの問題があった。

 婚約者として選ばれたメラニーは生まれつき魔力をほとんど持ち合わせていなかったのだ。

 基本的に魔力は主に親から子へと代々受けがれることが多く、スチュワート家のように魔術をしゆじくとして力をばしてきた貴族の子どもは強大な魔力を持って生まれることが多い。しかし、メラニーは一族の中で一人だけ、生まれ持った魔力量がいちじるしくとぼしかった。所謂いわゆる、落ちこぼれというやつである。

 だがスチュワート家の権力を望んだオルセン家はそんな落ちこぼれのメラニーを受け入れ、結局婚約は結ばれたのだが、当事者であるジュリアンは不満たらたらであった。

 メラニーもメラニーで顔は良くとも自分をぎらいする相手に恋心が芽生えるはずもなく、二人の間には七年という長い付き合いにもかかわらず、いつさい甘い感情が流れることはなかった。

 そもそも、頭も良ければ顔も良いジュリアンは昔から周りのれいじようたちにそれはもうモテており、プライドも高く、自尊心も高かった。そんな性格のジュリアンと人見知りで大人しいメラニーとでは何から何まで合うところはなく、二人は上辺だけの婚約者であった。

 それでも一度決まった公爵家と侯爵家という家柄同士の婚約はそうそう無かったことにできるものではない。れんあい感情をともなわない貴族の結婚など往々にしてよくあるものだったし、結婚に対して夢を持っていなかったメラニーは、このまま成人して結婚するものだと疑うことなく思っていた。

 それに公爵家によめりすることは、一族の落ちこぼれとしてゆいいつ自分が家のために役立てる道だと思っていた。落ちこぼれの自分にも家族は優しく愛情を持って接してくれたが、それを申し訳なく思っていたメラニーにとって、大切な婚約だったのだ。

 しかし、無情にもジュリアンはメラニーに婚約きつけ、しかもよりによって親友であったエミリアと婚約を結び直すと言うではないか。

 一方的に婚約の破棄をしようとするジュリアンもそうだが、そのとなりあざわらうように立っていたエミリアの姿も信じられないことだった。

 引っ込み思案なメラニーにとってエミリアは心を許せるかけがえのない友人で、そんな友が自分を裏切ったことが余計にメラニーの心を傷つけていた。

 エミリアの生まれたローレンス家は、最近になって男爵の爵位を得た新参者の貴族であった。新生じゆつと呼ばれる、えいしよう時間の短縮や魔力の消費量をさくげんした、新しい魔術を生み出し、今貴族の間で注目されている家である。エミリア自身もその新生魔術に特化した魔法を研究し、魔術師としても非常にすぐれた才能を持っていた。

 加えて見目うるわしいようぼうそなえており、男性じんから非常に人気のある令嬢でもあった。

 性格も明るく、自分の意見をきっぱりと言う姿は、大人しくて人のかげにいつもかくれているようなメラニーとは正反対だったのだが、それでも二人は仲の良い友人だった。

 過去にはジュリアンに好意を向ける令嬢に絡まれたとき、大人しいメラニーの代わりにその令嬢たちを追いはらってくれたこともあった。

 その時は、「メラニーも侯爵家のむすめなんだから、あんな子たちに言われっぱなしじゃだめよ」と言ってくれたのに、そのエミリアがジュリアンをうばうなんて、いまだに信じられなかった。

(ひょっとしたら、エミリアもジュリアンと同じで、何の取り得もない私をうとんでいたのかもしれない。魔術師の一族としても、侯爵家の娘としても私は相応ふさわしくない。私ってどうして、こんな落ちこぼれなのだろう……)

 婚約者と親友の二人を一度に失い、あまりのショックに数日んでいる間に、スチュワート家とオルセン家の両家の間でも話がまとまり、ジュリアンとの婚約はあっさりと解消されることとなった。



 正式に婚約の解消が決まった後、リビングに集まった家族に囲まれ、メラニーはしょんぼりとうなれていた。

「メラニー、そんなに気を落とすことはないよ。あんなクソみたいな男にメラニーは相応しくなかったんだから」

 メラニーの二つ上の兄が言えば、隣に座った一つ下の妹が大きくうなずいて賛同する。

「ええ、お兄様の言う通りですわ。あんな顔だけの男のところに、お姉様がとつがなくて良かったです」

 兄妹きようだいの言葉に続けて、今度は父と母がちんつうおもちでメラニーに謝った。

「メラニー。あんなつまらない男と婚約をさせてすまなかった。最近の公爵家は魔術だけでなく、人間もくさっているとは思いもしなかったよ」

「そうね。あんなおろかな子だと知っていたら、もっと早く婚約を取り消していたわ。これはけなかった私たちの責任です。あなたがやむことなんてないわ。オルセン家とは付き合い方を改めないといけないわね」

 ここぞとばかりにジュリアンとオルセン家をこき下ろす家族に、メラニーは落ち込んでいる自分をづかって言ってくれているのだと思い、なぐさめてくれる家族に感謝した。

「お心遣いありがとうございます。……でも、私、これからどうすればいいか……」

 公爵家との縁談がなくなり、今後の自分の将来について考えると泣きそうになった。ゆうしゆうな魔術師である兄や妹とはちがい、これといった特技もなく、スチュワート家の人間としてお荷物である自分が悲しかった。

 再び、縁談を望んだとしても、いまごろ社交界ではメラニーがジュリアンに婚約破棄されたことは大きな話題となっているはずだ。しかもメラニーは侯爵家の令嬢。それが男爵家のエミリアに婚約者を奪われたとなれば、どんなうわさが飛びっているかわからなかった。そんなめいの付いた令嬢をわざわざめとりたいという人間はいないだろう。

 そう考えると両親が決めてくれた良縁をみすみす破談にさせてしまったことが申し訳なくて、この場にいることすら居たたまれなくなった。

「すみません。泣き言を。……私、お部屋にもどりますね」

 メラニーは込み上げそうになるなみだこらえて、席を立った。


    ● ● ●


「……メラニー」

 メラニーが退出した後、残った家族は顔を見合わせてうなった。

「あれは相当こたえているようだな……」

可哀かわいそうなお姉様。別に公爵家の嫡男にられたくらいで、気にむ必要なんてありませんのに……。そもそも公爵家の縁談を持ってきたお父様のせいよ」

「うーむ。魔力のないことに引け目を感じているメラニーのためと思って受け入れた縁談だったんだがな。今回のことで余計に自信を無くさせてしまったかもしれないな」

「あの子も周りの声を気にしすぎる面があるものね。思いめないか心配だわ。……何か私たちにできることがあればいいけれど」


    ● ● ●


 婚約解消が決まってから数日後。

 メラニーはいつものようにスチュワート家の知の宝庫と呼ばれる書庫室にこもっていた。

 書庫には古い書物がたくさん並んでおり、中に入ると、カビくさい書物のにおいが鼻をつく。この匂いをジュリアンは毛嫌いしており、古い本ばかりを読むメラニーを敬遠していたが、メラニーは古紙や古いインクの匂いが好きだった。

 メラニーはずらりとたなが並んだ書庫室の奥、かなり古い年代の書物が置いてある棚へと向かった。その棚には歴史的価値のある本が並んでいたが、どれも厳重に保管されているものの、メラニー以外は読んでいないようで本にはうっすらとほこりが積もっていた。

 その棚の中から読みかけの本を一冊手に取ると、ざらざらとして今にも破れそうな紙をていねいめくる。その本には現代ではすたれてしまった古代文字が書かれており、その大昔の文章をひもきながら、メラニーは古代魔術と言われる古い知識にひたっていく。

 こうやって魔術の本を読むことは魔法が使えないメラニーにとって、魔術にれることができる唯一の方法だった。

 それは優秀な魔術師の家系であるスチュワート家の娘としてのきようだったのかもしれない。

 そもそもメラニーの生まれ育ったフォステール王国は、魔術によって発展してきた国である。国の周りにはきようぼうな魔物が蔓延はびこっているため、強力な魔術を使いこなす者ほど立場はゆうぐうされ、貴族の多くは魔術の研究に力を注ぎこんでいた。家によっては秘術を生み出すことに情熱をかたむけたり、時には家系に魔力の多い人間を取り入れたりと、一族の力を強固なものにしてきた。

 スチュワート家はその中でも伝統ある魔術師の名家として知られ、例にもれずメラニーの兄や妹は生まれながらに魔力量も多く、魔術を学ぶ魔法学校でも優秀な成績を収める優等生であった。

 しかし、メラニーはそんな兄妹とは違い、魔法学校にも入学することができないほどたる魔力量しか持っておらず、使えるのはすいてき程度の水を発生させることや、ふうかせる程度の弱い魔法くらいのものであった。そのため、しんせきや周りの人間からスチュワート家の落ちこぼれだとぼう中傷を受けて育ってきた。

 幸い、家族はそんなメラニーを愛情深く育ててくれたが、それでも小さいころから背負ったれつとう感がふつしよくされることはない。こんな自分でも何か家のために役立てることはないかと、両親がすすめてくれたこうしやく家とのえんだんを受け入れたのもこういった理由からだった。

 魔法が使えないのならば、せめて貴族の娘として相応しくあろうと思い、メラニーなりに苦手な社交界にも参加してきたつもりだが、交友関係をしゆじくとした貴族の世界は引っ込み思案のメラニーにとっては苦痛でしかなく、気をまぎらわせるためにこうして書庫に籠ることがいつの間にか日課となっていた。

 元々昔から勉強することは好きだったので、両親からじゆつを学んだ後は、こうやって本を読むことでこっそりと勉強を続けてきた。最終的に現代魔術から古代魔術へと興味は移り、おしきねむる古文書を片っぱしからむさぼるように読むようになった。

 おかげですっかり古代語のエキスパートとなったメラニーだったが、それもいかがなものか。

 古代魔術はその名の通り古い魔術で、現代では消えてしまった魔術を指しており、今では好んで古代魔術を研究する魔術師はほとんどいないと聞く。それは古くからの魔術師の名家であるスチュワート家においても同じで、古代魔術を記した書物こそ大事に保管されているものの埃をかぶっている状態で、家族のだれ一人として研究をしている者はいなかった。

 そんな古代魔術を紐解いたところで、きっと何の役にも立たないだろう。だからと言ってほかに得意なこともなく、これでは本当にスチュワート家のお荷物だ。

 こんやくを解消されたばかりで再び社交界に出て、新しい相手を探す度胸もない。それに、今まではジュリアンのところへとつぐつもりでいたので、これから先、何を目的に生きていけばいいかもわからなかった。

「……はぁ。私、これからどうすればいいのかしら」

 メラニーがぼんやりと書物をながめていると、不意に足にスリスリとこすられるかんしよくがした。

「あら、メルル」

 視線を落とした先にいたのは、メラニーの使い魔である白いだいじやだった。

 その体長は優にメラニーの身長をす長さで、どうまわりもメラニーのうでより太いきよだいへびだ。つうの人間ならば一目見て、その巨体におどろいて飛び退くだろう。

 だが、キラキラとした宝石のような真っ赤な目を向け、クネクネと体を擦り寄せるメルルにメラニーはフフッと笑う。

「どうしたの? こんなところに来て」

 メラニーは読んでいた本をわきに置いて、メルルの体をひょいとすくい上げた。普通ならば重量感のある巨体も、使い魔というとくしゆな生命体ゆえに、大して重みを感じることはない。メラニーはひざの上にメルルを乗っけると、とぐろを巻く白い体をでた。

 普段は部屋で大人しくしているはずのメルルが屋敷の奥にある書庫室まで来ることは非常にめずらしい。

 メラニーがいとしそうにメルルを撫でていると、おくれて新たな客人が姿を現した。

「やぁ、メラニー。こんなところにいたのか」

「ダリウス叔父おじ様!」

 戸口から現れたのはメラニーの叔父のダリウスだった。

 母の弟であるダリウスはすらりとした長身の、くち髭とあごひげれいに整えたしんで、メラニーの兄や妹が通う学校の教授でもあり、両親といつしよにメラニーに魔術の基礎を教えてくれた先生でもあった。

「よくここにいるとおわかりになりましたね」

「メルルに案内してもらってね」

「まぁ。めつに私以外の言うことを聞かないのに、さすが叔父様ですね」

「ははは。なぁに、えさっただけだよ。ほい、メルル。約束の餌だ」

 そう言ってダリウスはメルルに向かってポケットから取り出した肉の餌を投げる。

 メルルはそれを器用に口でキャッチすると、まるみにし、満足そうに体をらした。

「ところで叔父様、私に何かようですか?」

「うむ。姉さんから、君がっているようだと聞いてね」

「……お母様が」

みんな引き籠っている君を心配しているんだ」

「……」

 メラニーがだまり込むと、ダリウスはやさしい口調で言った。

「なぁ、メラニー。気分てんかんに魔法学校へ来てみないかい?」

「え? 魔法学校ですか? でも、私、魔力もないのに……」

「なぁに。私の助手として事務仕事でもしてくれればいいよ。ここにいるよりよっぽどいいだろう。どうだい?」

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