3匹のメダカ
タニタクミ
3匹のメダカ
今日は春らしくポカポカした日。
全国各地から沢山のメダカが
この田んぼに集まってくる。
野生のメダカというのは天敵も多く病気にもなりやすいので、ほとんどのメダカが1年くらいしか
生きられず2回目の冬を越すメダカというのは
本当に珍しいことらしい。
ただ、ここ数年暖かい冬が続いたこともあってか
今年は2回目の冬を越したメダカが3匹もいる
ということで、そのお祝いをしに全国各地から
メダカたちがこの田んぼに集まってくる。
精一杯お祝いしようと群れになって移動する
メダカたち。
やがて田んぼいっぱいに沢山のメダカたちが
集まり、式がスタートします。
この式をしようと提案した主催者メダカのあいさつから始りました。
「本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。
今年は本当に私たちメダカにとっておめでたい1年になりましたね。
冬を2回も越えて私たちに生きる希望や勇気を
与えてくれた、たくましい3匹を精一杯
お祝いしましょう。」
主催者メダカの気持ちのこもったあいさつのあとは
今日の主役である3匹が順番にみんなの前に
登場し、守ることができず死んでしまった
家族や仲間のこと。
そしてそんな家族や仲間に支えられて今日をむかえられたと涙ながらに語り、それを聞いていた
メダカたちも目に涙を浮かべ3匹を称えました。
3匹目のメダカがあいさつを終え、まもなく式が終わるとみんなが思っていたそのときでした。
「あいさつはここで終わりなのですが、式はまだ続きます。
ここからは僕たちを祝ってくださった皆さんが主役です。」
とおもむろに3匹目のメダカが言いはじめました。
「確かに僕たちは周りの方に支えられて
ありがたいことに長く生きてこられました。
でも、長く生きてるからすごいわけでも
えらいわけでもなく生きているだけで十分すごいしえらいと思います。
病気や天敵などから身を守りながら必死に1日1日を生きているのは今日来てくれている皆さんも同じです。
なので、ここからはこの3匹で皆さんのことを
祝わせて下さい。」
なんと今度は3匹が今日集まったメダカたちを祝おうと言い出したのです。
はるばる遠くから来てくれたメダカたちのために
3匹のメダカが自ら集めてきた、彼らの餌である藻やプランクトン、成魚になってるメダカにはボウフラなどが振る舞われました。
そこには普段、真剣に生きることを頑張っている
メダカたちがそのことを一瞬だけ忘れ、日頃の頑張りをねぎらいました。
生きるというただ一つの目的をひたすらに全うするメダカ達はお互いを傷つけるという発想などなく、
ただただ心から生きて欲しいというメッセージをかけ合いました。
という、そんな尊い時間メダカたちは過ごしていた。
しかし、ここは野生の世界。
天敵であるヤゴやタガメ、空ではカラスやサギが目を爛々とさせ、田んぼに集まった大量の格好の餌食たちをいつ食べようかと待ち構えていた。
我慢しきれなくなった1匹のタガメが群れに突進
したのを合図に他の天敵たちもメダカたちを襲った。
お祝いにきたメダカも厳しい冬を2回も耐えた3匹のメダカも、野生の世界では日々一生懸命生きていることを互いに讃えあい誇ることさえも許されない生きていくことに愚直な世界だということを学びながら、メダカたちは次々と食べられていった。
3匹のメダカ タニタクミ @tani_takumi
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