BLゲーの世界に転生したんだが俺たちは女が好きだ

広瀬弘樹

第1話 男の悪役令嬢カミーユ・ミスクレス

 この状況で入れる保険があるんですか?

 というかあるなら教えて欲しい。絶体絶命のピンチだ。

 俺は今厳かな教会で目の眩むようなイケメンと二人、神父の前に立っている。神父は愛の誓いがどうこうと言っているが、隣のイケメンよりなにより俺の尻の純潔が愛おしい。

 これはR指定BLゲーム『ユオリアズリリィ』のH場面直前。主人公と王子様が教会で結婚するシーンだ。

 姉貴が同人誌で何度も描いていたから知っている。これから主人公と王子様がぐちょぐちょの濡れ場を演じるということを……!

 逃げるか。逃げてしまおうか。異世界転生だか転移だか知らんがクソッタレ過ぎる。

 出来るだけ薄目で周囲を確認するが流石王族の結婚式だけあってガチガチに警備が固められている。確かゲームでは省略されてるのだが、パレードなんかもあるらしい。狙うならそこか?

 ふと、違和感を覚える。

 姉貴の同人誌では黒かったはずの主人公の――つまりは俺の――髪が銀髪であることに。

「新婦、カミーユ・ミスクレス。あなたは新郎ガウリール・ランブール殿下を夫とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も……」

 カミーユ・ミスクレス!

 その名前は覚えている。女の子じゃないのが残念な見た目のキャラだ。BLゲームなのに女の子いるじゃん好み~とか言ったら姉貴にそれ男だよと言われた。悲しみ。

 姉貴曰く、攻略対象の好感度が低いままストーリーを進めるとあっという間に男をかっさらっていくハイエナみたいな奴だとか。

 えっ、何? 俺悪役令嬢なの? しかも男の悪役令嬢とか誰得なんだ?

 混乱する俺に神父が誓いますかと問いかけて来る。

 嫌だー! 頷きたくない!

「可愛いカミーユ、緊張しているんだね」

 金髪碧眼のtheプリンスという風体の王子様改めガウリールがフォローを入れる。わー顔が良い。どっかの男の騎士王みてー。

 そのまま大変に整った顔面を寄せてきてぼそっと呟く。

「ユオリアズリリィを知っているなら縦に、知らないなら横に首を振れ」

 俺は一も二もなく縦に首を振った。

 神は俺を見捨ててはいない。ガウリールもまた転生者だったのだ!

「パレードの馬車を奪う」

「了解」

 素知らぬふりで元の位置に戻った俺たちに神父が決まり文句を問いかける。はいと答えると参列者から祝福の嵐が飛んできた。

 すみませんね、俺たちこれから逃避行するんですよ。

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