カルチャースクール小説講座課題集

木下森人

食事の情景を書きなさい(600字)

「脱ぎなさい」

「はい」

 魅了にかかった獲物は、私の意のままにスカートをたくし上げ、タイツを下ろした。皮をむかれたライチのように、白くみずみずしい脚があらわになる。

 頸動脈から血を吸うヤツはニワカだ。私に言わせれば、動脈血はただ色が鮮やかなだけで薄味だし、風味に欠ける。ツウは二酸化炭素が結びついてドス黒い、静脈血を好む。なかでも内ももの静脈、鼠径部のすぐ下あたりに流れる血は特に味が濃い。ちなみにこれは傷痕を隠す上でも好都合だ。首筋よりずっと目立たたない。

 私は獲物の股ぐらに顔をうずめて、唾液にまみれた舌を内ももに這わせる。産毛はほとんど生えていない。毛があると血を啜るとき、唇に当たる感触が不快なのだ。念のためシェーバーを常備しているが、これなら必要あるまい。そのまま鋭い犬歯を柔肌に突き立てた。

「あンッ」獲物の口から嬌声がもれる。唾液にふくまれた毒で、痛覚は快感に変換されている。

 傷口から血を吸い出す。上品さのかけらもなく、じゅるじゅると音を立てながら。テーブルマナーの講師が見たら卒倒するだろう。

 血は生温かく、ねっとりと舌に絡みつく。飲み込むのも一苦労だ。獲物にありつけないときはホットチョコレートで代用するが、本当は固形チョコを湯煎で溶かしたほうが似たカンジになる。

 もっとじっくり味わいたかったが、予鈴が鳴ってしまったので、私は名残惜しくも唇を放した。

「――ごちそうさま。確か次の授業は体育だったわよね。遅れないように気をつけて」

「はい、お姉さま」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る