壊れた世界の絶望の中で
夜々予肆
1
村へと続く道を歩いている途中で、エボニーは空を見上げた。するとすぐに、禍々しく巨大な卵が宙に浮いているのが見えた。
「やっぱりどっからでも見えんだな、これ」
エボニーはわかっていたが、という思いを滲ませながら呟いた。
今から四年前、この国――ブーゲンビリア王国の上空に突如どす黒くいびつな姿をした巨大なドラゴンが現れた。
人々はそのドラゴンを「
なぜ突然現れたのか? この世界に元からいた竜なのか? そうでないのなら誰が呼び寄せたのか? なぜ人々を自殺に追い込むのか?
このように他にも疑問は山ほど思い浮かぶが、何一つとして判明することは無く、討伐も試みられたがあえなく失敗に終わり、そうしている間にも人々は自殺し続けた。
しかし二年前、生き残っていた人々が魔法の鍛錬を積み魔術師となり、そして文字通りの命懸けの戦いにより、魂壊竜の封印に見事成功した。拘束魔法や封印魔法、弱体化魔法を複数人で何重にも掛け、ひとまずは無力化を果たしたという事である。
こうして世界に再び平和が訪れた――なんて事は当然無かった。死んだ人々が生き返る訳でも無ければ、今更帰る場所がある訳でもない。それに何より、今の状態では根本的な解決には何一つなっていない。どうにもならないものにとりあえず蓋をしたというだけなのだから少し猶予が与えられただけで、いずれこの国は再び魂壊竜により滅ぼされる。その事実は変わらない。相変わらず絶望に包まれたままだ。
「やっぱそうなのか? そんなハズは無い! なぜなら俺はそのためにバキアの魔法学校まで行って三年間魔法の鍛錬を積んできたんだからな!」
エボニーは周囲の人間と同じように自らも絶望に陥りそうになる思考を振り払うかのように、誰に向けてでもなく説明した。ちなみにバキアというのはこの国の隣にある比較的平和な国である。
「といってもどうすればいいのか俺にもわかんねぇけど! ま、村に帰ればとりあえず何とかなるか!」
そうしてエボニーはしっかりしろ俺と思いながら、自分の頬を叩き、再び故郷の村――エルビジェへと足を動かしたのであった。
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