第3章・4

「ヘイロンのじいさんが、元来の放浪癖をこじらせてエルフの里に赴いたのは五〇年も前のことになる。そのとき、拾った子どもがお前だった。拾った子どもと言っても、捨てられてたお前をそのまま拾ったわけじゃないが。


 薄々気づいてはいたとは思う。お前があのじいさんの本当の子どもじゃないことは。

 まあ、本当の子どもだったら、オマエも今頃禿げてるに決まってる。


 痛った――肩を殴ってんじゃねえ。どういう怒りだよ。


 とりあえず聞け。

 これが本当のお前の出自なんだ。


 エルフの里で、じいさんはおおよそ六〇〇年前に倒された龍の内臓を見た。それが炎を吐く管で、それを元に蒸気による機関を発明したという。それと同時に、不思議な石を発見したのだという。俺も聞いただけに過ぎない話だが。


 それは大きな石だった。

 人が抱えても、手が回り切らないくらいの大きさと聞いた。

 エルフによれば、それは龍が咥えていた石だという。まるで仇だとでも言うかのように、牙を立て、上空で狂ったかのように飛んでいたとき、当時のエルフの王・オルブルームによって落とされた。それは知っていることだろう。


 水の刃で翼を切られ、打ち倒された龍は、石を口から溢す。石が口から毀れた瞬間、近くの草も木も瞬時に燃え始めた。

 辺りが瞬く間に火事になり、木を切って消火を始めなければならなくなったほどだという。周りを二久碼ほど更地にした石は赤々と燃えて、土すらも溶かすほどだったという。

 それからの一五〇年でようやく温度が下がり、じいさんが見つけた時にはやっと人が触れられるくらいになっていたらしい。


 石が、どうユールの話に繋がるかって?

 簡単だ、その石から生まれたのがお前だよ。

 嘘じゃねえ。それを会社に持ってきて、日々研究していた。その石が何なのかを。

 だが、二十二年前のお前の誕生日、石は勝手に小さくなったという。小さくなったというか――今もぶら下げている、その石を抱えた赤ん坊に変わったというのが正しいか。


 じいさんは、その子をユール・ガラントと名付けて育てた。


 まあ、お前は不思議な子どもってことだ。

 おっと、揺れたな。

 ポド、まだ行くなよ。少し聞いてろ。

 大事なところだ。

 


 不思議な話で終わらせたら、何が技術屋か分からないだろうが。

 調べたよ、その石の正体を。始めは命を生む石だと思ったが、それは違った――お前はずっと守られていたんだ。石によって。


 ガブリエットが教えてくれた、その色の石を前に見たことがあると。

 六〇〇年も前だそうだ。

 その石を持ったまま、行方不明になった魔法使いがいたと。


 戦争最大の悲劇の中、魔法使いは地より噴き出す火焔によって焼かれ死んだものと思われていた。だが、違ったのだ。魔法使いは、火の魔石の力によって、火の中から再度生まれた――もしかしたら一度は死んだのかもしれないし、ただただ若返っただけなのかもしれない。でも、いくら魔法でも今までゼロから命を作り出せた試しはないとすればだ。

 お前は――もう分かるな……」

 



「ちょっと、待ってくれ。オヤジ」

「ファーヒル、もういいんだ」

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