【小説大賞応募用】愛は時を超えるのか?

安達尤美

プロローグ

「君は、白馬の王子様になりなさい」


 これが師匠であり、育ての親だったローレンスに最初に告げられた言葉だった。

 ぶっちゃけコレを最初に言われたとき、僕にはさっぱり意味が分からなかった。

 なにせ僕には、この直前に父さんを母さんに殺されて、そしてこの人に助けて貰ったという経緯があったからだ。

 九死に一生をくれた恩人がこんなことを言ってきたら、普通の人なら頭の病気を疑うと思う。少なくとも僕は『この人大丈夫かな?』と内心思った。 

 けどそんな思いはすぐに雲散霧消。次に言われた一言によって、僕はすぐに信じる方へシフトすることになった。


「君はとある少女の夢を見ているはずだ。予言しよう、彼女こそが君のお姫様だ。君たちは出会うとたちまち恋に落ち、生涯その人に愛を誓うことになる」


 この言葉に僕は心底驚いた。僕が夢を見ていることは、誰にも話したことがなかったからだ。

「おじさん、なんで知ってるの?」

「私は君のことならなんでもお見通しさ。君は彼女のことが好きなんだろう?」

「うん。いつか結婚したい」

「だったら、おじさんのことを信じてほしい。君がおじさんを信じ、白馬の王子様になるのなら、彼女と結婚することができるよ」

 おじさんことローレンスは、気持ちよく断言してくれた。


『白馬の王子様になれば夢の中の少女と結婚できる』


 この言葉はとても甘美な響きだった。白馬の王子様がどういう意味かこの時点では分かっていなかったが、なってもいいかなって思えるぐらいには。

「どうだい? おじさんに夢を預けてみないか?」

「うん、預ける! 僕は白馬の王子様になる!」

 こうして、僕は白馬の王子様を目指すことになったのだった。



 では『白馬の王子様』とは一体なんなのか? ここではどういう意味で使われているのか?


 まず結論として、白馬の王子様とは『お姫様を守る、お姫様のための正義のヒーロー』のことだ。

 世間一般的に白馬の王子様とは、女性の永遠の憧れの存在。金持ちでイケメンで優しい、そんな存在が世間のイメージだろう。これは僕も目指すところである。

 だがそれだけじゃない。僕の目指す白馬の王子様は、さらにお姫様を守る存在なのだ。

 なら『守る』とは何からなのか? これはおそらく『屍人しかびと』と呼ばれる存在からだと僕は考えている。

 屍人しかびととは、1960年代から確認されるようになった奇病『ゾンビ症候群』に発症した生物の総称だ。人・動物に関わらす発症し、発症すると腐敗した皮膚と強靭な肉体を得ることができる。

 しかしその代償に、自我を失い暴れ出してしまうのだ。現在も、世界各地で発生しては人々に多大な被害を与えている。

 だから僕の目指す白馬の王子様には、おそらくこの屍人しかびとを倒し、お姫様を守るという意味が含まれている。『おそらく』と言ってるのはこれがローレンスの予言ではなく、ローレンスの職業を理由に僕が予測しているからだ。

 ローレンスはざっくり説明すると、その屍人を狩るのを生業なりわいにしている剣の達人だ。その剣術は鍛えられた金属のように研ぎ澄まされており、倒した屍人の数は数え切れない。人々は、そんな彼の強さと振る舞いから『ローランの再来』と讃えていた。

 ただ僕の印象としては『謎の人』って感じだった。僕の見ていた夢をズバリ的中させたのはもちろん、たまに家を開けては何かしているようだった。何をしてるのか聞いても、ノラリクラリと躱して教えてくれない。

 でもそんな要素を足し引きしても、僕にとって命の恩人で、生きる指針を示してくれた存在であることは変わらなかった。


 ローレンスと過ごした10年は、厳しくも楽しい毎日だった。


 ローレンスは剣術、学問、教養、振る舞いとその一切を手を抜かずに教育してくれた。ローレンスが残りの人生を僕に捧げてくれたことは断言できる。

 僕はローレンスを尊敬していたし、彼のように強くなろうとしていたのは語るに及ばない。


 しかし、そんなローレンスは一ヶ月も前に息を引き取った。


 原因は癌。屍人をモノともしない達人であっても病には勝てなかったのである。

 でも僕に泣いてる余裕はなかった。ローレンスの遺言に従って、行動を開始しなければならなかったからだ。

 この遺言が僕の白馬の王子様としてのスタート。これから始まる恋愛譚の最初の一歩だった。


 遺言にはこう書かれていた。


○財産のすべてをアーサーに相続すること

○自分の武器は『みなき武具店』に売り払うこと



 そして────



「こんな坂があるなんて……」

 秋になったにも関わらず、いまだ夏としか思えない熱気に晒されながら、僕は学校へと続く坂道を登っていた。


“桜丘大学附属第三高校”


 小、中、高の一貫校であり、さらに大学まである行けば学歴に困ることはない名門校だ。

 通っている生徒も中流以上の出自の者が大半である。頭のデキはともかく、田舎の貧乏学校で過ごしてきた僕には縁のない学校だった。


○桜丘第三高校に通うこと


 以上が、ローレンスが残した遺言だ。

 僕には、彼がどうしてこの学校に通わせようと思ったのか、なんとなく理由が分かっていた。

 そこにお姫様がいるのだ。彼にはそれを知っていたから、ここに転校するよう遺言を残したのだ。ホント、最後の最後までローレンスには感謝しかない。

 ありがとうローレンス。僕はあなたがしてくれたことを決して忘れません。


 そうして僕は新たな一歩を踏み出す。

 白馬の王子様としての人生を始めるために。

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