博物館とお姉さん
赤崎幸
短編 博物館とお姉さん
僕は博物館が好きだ。
おもちゃ箱をひっくり返したような、わくわくが詰まっている。そんな気がする。
今日も僕は来ている。これで何度目だろう。どこに何があるのか大体覚えている。
そら、そこの角を曲がると大きな恐竜の化石が見える。その先に進むとラプトルの全身骨格とその説明が書いてある。
僕は頭が良いからもう漢字だって読める。
その先に行くと色々な石がある。宝石とか隕石とか火山から飛び出してきたやつとか。
宝石もきらきらしていて綺麗だし好きだ。
下の階に行くと宇宙の展示がしてある。星のでき方だとか、つぶがどうだとか書いてある。
これはさすがの僕でも難しいからまだ分からない。だけどきっとそのうち分かるようになると思う。
そんなわけで僕は時間があればいつもこの博物館に来ている。
もちろん楽しいからだけど、もう一つだけ理由がある。
「あら。また来たのね」
そう後ろから声をかけられた。
解説をしているお姉さん。この人はとても頭がいい。僕の尊敬する人の一人だ。
「また来たよ。あのね先週の算数のテストまた100点だった」
「勉強頑張ったんだね」
頭をなでてくれる。うれしい。
「将来は博士かな?」
「僕頑張るよ。頑張って頭良くなってここのこと全部分かるようになる」
「ふふ。これからも頑張ってね」
僕はこのお姉さんと話すのが好きだ。いつも僕が知らないことを教えてくれるし、展示物の説明もしてくれる。
学校の女の子とは全然違う。大人な人だ。僕も早く大人になりたいと思う。
お姉さんとの別れは突然だった。
「私ね、引越しするの。結婚して旦那さんのところに行くんだ」
声が出てこなかった。
「だからね、私がここにいるのもあと1週間くらいかな。君とお別れするのは寂しいね」
寂しい。そうお姉さんは言ってくれたけど、どこか嬉しそうな顔をしている。
「寂しくない」
「あら、そう」
お姉さんの左手には指輪がはめられている。
その輝きにも僕は嫌な気持ちになる。
それからのことはあまり覚えてない。
あれ以来僕は行くのを止めたから。
そして僕は大人になった。
博物館にふと立ち寄ってみたくなった。
特別展で海外から大層な作品が飾られるらしい。
久しぶりに中へ入ってみるとあの頃と全く変わっていなかった。
いや、少しだけ色あせているように感じた。
博物館の内容が変わらないのはどうなんだろうと思うけど、町の小さい博物館だったら仕方がないことかもしれない。
あの頃と同じ恐竜の骨、宝石、太陽系の模型、そして説明文。
おもむろに書いてあることを読んでみる。
なんだ。あの時は難しそうに思えていたけれど、今読むとずいぶん簡単なことしか書いてなかったんだな。
簡単といっても中学生くらいの内容。でも当時の僕からすると理解できなかったろう。
何も変わっていない。
お姉さんがいないことを除けば。
あぁでもやっぱり僕はここが好きなんだ。
博物館とお姉さん 赤崎幸 @amaryllis1204
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