人を呪わば

ピギョの人

第1話 縁結びのおまじない

 私には大好きな幼馴染がいる。

 名前は花道十愛はなみちとあ。私はいつも十愛とあちゃんって呼んでいる。

 幼稚園の時に知り合ってから今まで、ずっと一緒に育ってきた。

 十愛ちゃんはとっても可愛くて、誰もが守ってあげたくなるような子だった。

 甘え上手でおっぱいも大きくて、男の子にもモテモテで、私とはまったく違う生き物のように見えていた。


 そんな十愛ちゃんの事を、友情を超えて好きになってしまったと気づいたのはいつだっただろうか?

 十愛ちゃんが男の子に告白されたと聞いた時だったかもしれないし、テスト勉強が不安で泣きついて来た時だったかもしれない。

 とにかく私は自分の気持ちに気づいてしまった時から、この恋心とどうやって向き合うべきかずっとずっと悩んでいた。

 十愛ちゃんはいつもその可愛らしい顔を綻ばせて「大好き!」って言ってくるけど、それはきっと友達として。私の好きとは違うもの。

 この好きを伝えてしまったら、十愛ちゃんはどんな顔をするのだろう。

「それ本当? 嬉しい!」と言ってくれるのかな。

 それとも「えっと、ごめんね……そんなつもりで言ったんじゃ……」って困らせてしまうのかな。

 そうやってもんもんと考えているうちに、ある噂が耳に入って来た。


「最近花道さん二組の羽流はるくんと仲良いよね」

「見た見た! よく一緒にいるよね」

「もしかして付き合ってるのかな……」

「えーやだー!! 羽流くん取られちゃったの!?」


 たまたまトイレで噂好きの女子たちが話していた内容。

 花道は十愛ちゃんの苗字だった。

 最初聞いた時、まさか! って思った。

 だって私は十愛ちゃんからそんな話聞いていない。

 昔から何かあったら必ず教えてくれてたから、きっと勘違いに決まっている。

 頭ではそう考えていたけれど、心はしっかり動揺していて、蛇口をひねる手が震えて上手くひねることができなかった。


「十愛ちゃん!」


 結局居ても立ってもいられずに、私は十愛ちゃんのもとに駆けつけた。

 すると十愛ちゃんは私を見て慌てて何かを隠したようで……


「今何を隠したの?」

「えっ、えっと、そのぉ……」


 目を泳がせる十愛ちゃん。

 なんでも顔に出ちゃう十愛ちゃんが、私は可愛くて仕方なかったけど、今ばかりは疑心の方が優ってしまった。


「とーあー?」

「うっうぅ」

「何を隠したのかな? 白状しないと……」


 両手をわきわきさせながら、強硬手段に出るぞーとアピールする。


「わ〜だめだめだめぇ!」


 暫く二人で戯れあっているうちに、とうとう十愛ちゃんは諦めて、両手の中に包んだ隠し物を見せてくれた。

 それは小さなお手製のお守りだった。

 可愛らしいピンク色に花柄で、でもところどころほつれていたり歪だったりした。

 私には一目でそれが十愛ちゃん自身で縫ったものだと分かった。


「これは、その……縁結びのおまじないって言うか……他人に触られたらおまじないの効果無くなっちゃうから、絶対にぜっったいに触らないでね!」


 そう言った十愛ちゃんの表情は、まさに恋する乙女そのものだった。



 その日以降、私は夜も眠れないほど十愛ちゃんの相手が気になってしまい、今まで以上に十愛ちゃんを目で追うようになった。


 朝、おはようと皆んなに挨拶する十愛ちゃん。かわいい。

 一限目から眠そうにうとうとする十愛ちゃん。かわいい。

 二限目、教科書の偉人に落書きする十愛ちゃん。かわいい。

 三限目、こっそり早弁しちゃう十愛ちゃん。かわいい。

 四限目、先生に当てられて慌てる十愛ちゃん。かわいい。


 お昼休み、購買でパンを買って頬張る十愛ちゃん。かわいい。


 そして見知らぬ男子に呼ばれて教室から出て行く十愛ちゃん。

 一体何を話しているのかな? 楽しそうに笑う十愛ちゃん。

 何か喋った男に対して、照れ臭そうに頬を掻く十愛ちゃん。

 そして何を言われたのか、頬を膨らませて怒ったふりをしながら男を叩く十愛ちゃん。


 やめて!!


 そう叫んで二人の間に入れたらどれだけ良かっただろう。なのに私の体は金縛りにあったみたいに動けなくて、仲良く戯れ合う二人を延々と見てしまう。


 やだ……十愛ちゃん……そんな奴見ないで!


 心の悲鳴は声にならず、二人に干渉する勇気さえ湧かない。


 十愛ちゃんはあの男と付き合っているの?

 顔を合わせるたび、言おうとしては飲み込んでしまう言葉。

 一週間ほど、このような日々が続いたある休み時間。

 またもやトイレでこんな噂話を聞いた。


「ねぇ、知ってる? 縁切りのおまじないを」

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