僕の物語
シヨゥ
第1話
「僕は僕の物語を生きているわけで、君の物語の端役を演じているわけではないんだよ」
お師匠様は小鼻を膨らまして言う。
「僕の物語は僕が決める。そこに他人を介在させる隙間なんて少しもない。いいかい? 君の意見に従う余地なんて残されていないんだ」
胸を反らし堂々と言ってのけるお師匠様の言い分はとらえ方によってはわがままだ。しかし筋の通ったわがままは格好良くすらある。
「なにかを成したいならまずは自分から変わることだ。もしそれで影響力を持つまでになったら僕もちょっとは話を聞こうと思うかもしれない。だがまだだ。まだその域に達していない。僕に話を聞かせたかったら研鑽を積んでくることだな」
「……失礼する」
お師匠様にそこまで言われてしまっては温厚と言われた彼の国の主も顔を真っ赤にして部屋を出ていってしまう。もし彼の国の主では殴りかかっていたところだろう。
「良かったのですか?」
「いいもなにも命をかけて働きたくないからな」
そう言ってお師匠様はごろりと横になる。
「わっぱに読み書きを教え、鍬を振るう生活の方が性に合っている。軍を動かすなんて真平御免だ」
「そういうもんですか」
「そういうもんだ。やっと野に下って自由を手に入れたんだ。みすみす手放してなるもんか」
自堕落と言えば自堕落。だがそこに芯が通ればなんと言えばいいのだろう。
『もう少し活躍してくれてもいいのに』
そんな言葉を漏らそうものなら何を言われるか。しばらくはお師匠様を見守るしかない。そう思うのだった。
僕の物語 シヨゥ @Shiyoxu
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