第57話 仲直り
戦いが終わり、ここ魔界庁ではお祭り騒ぎが起きていた。
その理由は神がここから去ったことにより、ハーデス様が俺達に感謝の宴を開いてくれたからである。
「いやー! 今日は本当に愉快だ! さあ、幸太君も遠慮せずに飲んだ! 飲んだ!」
ハーデス様はお酒を掻き込むように飲み、凛々しい顔は真っ赤になっていた。
「いや、俺未成年ですから。酒はちょっと……」
「死んでいるのに法律に従順なんて、意外とまじめですね」
ファミが大きな骨付き肉をむさぼりながら話し掛けてくる。
「いや、死んでないからね。ほ・ぼ・死んでいるだけだから。ここ凄い違いがあるからね」
「ふむ。死んでないけど死んでいる様な雰囲気を出すとは、幸太さんは魔界に来れる才能を持っているみたいですね。完全に死んだ際はぜひ魔界へ」
「なに人を地獄に勧誘してくれてるの? はい、是非行かせてもらいますって言うと思う?」
「まあまあ、これでも飲んで落ち着いてください。未来の後輩」
ファミが赤いワインの入ったグラスを渡してきた。
「いや、だから酒は……」
「ぶどうジュースです」
「へっ?」
「赤ワインの雰囲気をふんだんに含んだぶどうジュースです」
そのジュースはメチャクチャ美味かった。
そんな極上のジュースを飲みながら周りを見渡すと、ヴィディやアテナやパラスもそれぞれ楽しんで宴会に参加している。
戦いに負けたのに、見る人が部外者なら間違いなく勝者の宴である。
本分は果たせなかったが、これだけ喜ぶ人たちを作れたならば戦った意味もあったろう。
そう考えながら、そんな人たちの顔を見回していたら、ある事に気が付いた。
ベルがいない。
これだけあのジャンクフード好きにはたまらない料理が並べてあるのに、あの女神の姿が見当たらなかった。
まあ、案外あれでコミュ症なベルだから、何処かに隠れてゲームでもしているのかもしれないが、一応神との戦いに参加した者だし引っ張り出して宴に参加させてやるか。
そう思い、俺はベルを探す為に立ち上がった。
別に誰に聞いたわけもなく、確信があったわけでもなかった。だけど、俺は何となくベルがいるであろう場所の想像が出来、スムーズに足が進んだ。
俺は宴会の喧騒を離れて、魔界庁にある眺めのいいバルコニーに出た。
そこには手すりの前に立ち、いつものようにゲームをしているベルがいた。
夜風に金に輝く髪をなびかせている姿はとても美しく、ただ眺めているだけなら本当に女神と言うものの神秘に触れているような感じになる。
「くそっ! キングメタルンめ、また逃げおった! これだからレベル上げは面倒なのじゃ」
そんな聞きなれた声を聞くと、俺は自然と笑みが出た。
「まったく、こんな所までゲームして。ゲームは一日一時間って言ったじゃないですか」
「む。なんじゃ、お主か。お主こそ今は宴の時ではないか。何故こんな所におる?」
「いや、俺ってこんな幸せムードに慣れてなくって、ちょっと疲れたんですよ」
「ふん。不憫な奴じゃの」
俺はさっきファミにもらったジュースの入ったグラスをベルに渡した。
「む! 何じゃこれ? メチャクチャ美味しいぞ!」
次にここに来る前によそった色々な肉料理の乗った皿を渡す。
「おお、お主にしては気が利くではないか。我の駄犬という自覚が出て来たの」
ベルは嬉しそうに肉料理をむさぼりだす。
「ここに来るまでに色々ありましたね」
「……そうじゃの。本当に我がどれほど苦心したか。今思い出しただけでも自分を褒めてやりたいわ」
「…………そですね」
「何じゃ? その無表情は。今お仕置きをして感情を取り戻してやろうか?」
俺達はいつものたわいない会話をした後、無言でしばらく夜景を眺めた。
そして、俺はある決心をした。
「…………ベル様」
「……何じゃ?」
「その……何ていうか……ごめんなさい」
ベルはしばらく夜景を眺め、口を静かに開いた。
「気にするな。我は女神だぞ。人間の些細な粗相など、この広く慈悲深い心で受け止めてやるわ」
「…………そっか。ありがとう」
俺はこうして十年ぶりに女神と仲直りをした。
「それはそうと話は変わるが」
「えっ、どうしたんです?」
ベルは神妙な面持ちで俺を見た。
「うむ。ある事に気が付いたんだが、お主我の事を秘密兵器と言ったな?」
「あっ……」
「今回の神との戦い。いわゆるラスボスとの戦いじゃ。こんな時こそ秘密兵器である我が活躍するべきだと思ったんじゃが……我の記憶が正しければ、我は何もしとらん」
あかん。話はうまく進んだのに、この女神は余計な所で余計な事に気が付く。
本当にずっと秘密にしておきたかったが、そういうわけにはいかなくなった。
「あそこで力を発揮できないとは……我はこのままずっと秘密に……」
「ベル様!」
「なっ、何じゃ?」
「…………都市伝説という言葉を知っていますか?」
「……その話、詳しく聞かせろ」
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