第27話 王子様 パラス登場

 神殿に着いた俺達は、早速受付さんにアテナを呼ぶように頼んだ。


 しばらくすると、アテナが少し興奮気味に早歩きで姿を現した。


「おお! 幸太、待っていたぞ! それで、俺が参加する競技は決まったか!」

「ああ、これなら必ず勝てる! ゲートボールだ‼」


 競技名を聞くと、アテナは先程の興奮具合が少し下がり、その場で足を止めた。


「ゲッ、ゲートボールだと?」


 あれ? やっぱりこんなのんびりとした競技だと、この血気溢れる女神様の欲求を満たせないのか?


 そんな事を考えていると、少し俯きむきのアテナの体が小刻みに震えだした。


「ふっ、ふふふふっ。あーっははははは!」


 アテナがいきなり声を上げて、豪快に笑いだした。


「いいぞ! いいぞ! これが武者震いというやつか! 幸太、やはり俺の目に狂いはなかった! 感謝するぞ‼」


 おお。やはり負けが込んでいたのか、勝てる試合に飢えていたんだな。


「ああ、それでちょっとお願いがあるんだけど」

「ん、何だ? 俺に出来る事なら何でも言ってくれ」

「大したお願いじゃないんだ。ただこの競技は5人制で、俺とベル様とヴィディ、そしてアテナしかまだ参加者がいない。それで、誰か一人をこの神殿の職員から貸して欲しいんだ」

「なるほど……」


 アテナが誰を貸すかを考えている時、俺の目に一人の女性が映った。


「あっ、受付さん! 悪いですけど、この競技に助っ人として参加してくれませんか?」

「嫌です!」

「はやっ! 断るのはやっ!」


 一考もせずに断られた。もう少し考えてくれてもいいのに……。


「あの、別にそんなに頑張らなくてもいいんですよ。参加チームも少ないからお時間も取らせませんし」

「申し訳ございませんが、その話はお受けできません」


 俺の説得を、受付さんに今度は丁重に断られた。その眼には断固とした決意が宿っていた。


 ここまで決心が固まっていたら、これ以上は何も言えない。


 あれ? 何か嫌な感じがするぞ……。


 俺が何かに疑念を抱こうとした時――


「ならばその競技、この僕が参加しよう!」


 アテナの後ろから、爽やかな声が響いた。俺はその声がした方を覗いた時、自分の目を疑った。


 その人物は赤のアテナに対して青い髪をなびかせ、目も透き通った海の様に青く輝いている。


 そして、その顔のパーツは全てが完璧なものを持っていて、何一つ欠点が無い。


 その存在はまるで少女漫画に出てくる、異様に目がキラキラしたキャラの様に輝きを放っていた。


 俺は思った事を、そのまま声を大にして叫んだ。


「いっ……イケメン過ぎるだろうがああああああああああああ‼」


 アテナの隣に現れた青年は、普通の人間では到底着こなせない白のタキシードに身を包んで、爽やかな流し目でアテナを見ていた。


「おお。誰かと思えば、パラスじゃないか」

「やあ、アテナ。今日も君は気高く美しい」


 普通の男なら言葉にしただけで痛く可哀想になってしまうセリフも、このパラスと呼ばれた青年は毎朝する挨拶の様に自然と言ってのけた。


「で、何でお前がここにいるんだ?」

「ああ、実は君が何やら不満を募らせているという噂を聞いてね。こんな美しき姫には常に笑顔でいて欲しいと思ってね。馳せ参じたわけだよ」


 すっ、すげえ。この二人が並ぶと、一つの芸術作品だ。


 このツーショットを写真に写すと、その一枚にどれだけの値が付くか。


「そしたら、丁度君が参加する競技に人が足りないって声が聞こえてね」

「おお、それは有難い。この競技はそこにいる幸太がセッティングしてくれたんだ」


 アテナが俺の方に指さすと、それを追ってパラスの目線がこっちに来た。


 すると、パラスは爽やかな笑顔のままこちらに歩み寄って来る。


「やあ、初めまして。僕の名はパラス。君の事は幸太と呼んでいいかい?」


 うおっ。近くで見ると益々イケメン度が高い。それに何だか凄くいい匂いがする。


「うっ、うん。いいよ」

「ふっ。有り難う。僕の事も気安くパラスと呼んでくれ」


 何だこの人は? 王子か? 王子様なのか!? 


 こんなにも微笑みが似合う人を見たことが無い。


「お主、何顔を赤らめておる? 気持ち悪いぞ」

「あっ、赤らめてねーよ!」


 というか、この人凄すぎる。ここまでイケメンだと、羨ましいとか、妬ましいとかの嫉妬心が全く出てこない。ただただ、スゲーってなる。


「ふっふっふっ。幸太は純情なシャイボーイなんだね」


 この人のセリフはいちいち小っ恥ずかしくなるものばかりだ。


 だが、それでもこの外見だと許されてしまうのだろう。


「話は戻るけど、さっきも言った通りに僕もこの競技に参加していいかい?」

「あ、ああ。勿論だ。むしろ助かるよ」

「じゃあ、今日から君も僕の大事なフレンズだ。よろしくね」


 アテナとは明日神殿で会う事を約束し、俺達はパラスを連れ今晩を過ごす宿に向かった。


 そして、宿の受付のお姉さんに、俺はいつも通りに便利なカードを提示する。


「あっ、それは女神カードですね。それじゃあ、個室を四部屋用意しますね」


 お姉さんはスムーズに対応してくれて、こちらの人数分の部屋を用意してくれる。

 

 そんな中――


「なあなあ、あいつらって……」

「まじかよ? 何て奴らだ……」


 さっきから、周りの人らがこっちを見てひそひそ話をしているように思える。


 俺がその人たちの方を向くと、一斉に目線を逸らされた。


 やはり、女神を二人も引き連れていると嫌でも注目を集めるのだろう。今はそんな事に気を取られずに、明日の為にちゃんと休息を取ろう。


 そう思い、俺はあまり気にせずに自分の部屋に向かった。

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