ブラックな神殿巫女を追放されて王妃にクラスチェンジ!
愛LOVEルピア☆ミ
第1話 砂漠の王国に水の巫女入りまーす
◇
その日はとても疲れていた、連日の祈りで五穀豊穣無病息災があまねく国の全てに行き渡るようにと徹夜で神殿に籠もっていたので。昼過ぎに家に戻ると大国務院の兵が待っていて前置きも無く言ったわ。
「エクセル・エターナル、大臣のチャールズ王子が降雨の祈りを所望だ。明日まで祈願を行え」
「徹夜で戻って来たばかりなんですけど」
明日って二日も徹夜させるつもり? もうお肌も痛んできてるし、しばらく休みたいんですけど。
「それがどうした。これは命令だ」
疲れがたまっていて考えもまとまらなくて、その言い方に苛立ちもあって、ついつい思ったことを口に出しちゃう。
「イヤよ」
「何だって?」
流石に聞き間違いだろうと兵が一度は聞きなおしてきた。
「イヤよ! 徹夜で戻ったばかりって言ってるじゃない、少しは休ませてよね」
聞き違いでは無かったのを確認すると眉を吊り上げて兵は顔を赤くした。
「大臣の命令に背くとは! エクセル・エターナル、最後にもう一度だけ尋ねる、直ぐに祈願を行うつもりは」
その瞳は本気だった、だけどもこっちの疲れも本気でピークなんだ。
「ヤダ!」
「よかろう、貴様を国外追放処分とする! 連行しろ!」
「え、嘘でしょ!?」
あまりに急なことで取り乱すけど、兵は左右を挟んで無理矢理に馬に乗せると東に向けて駆けだした。国の端の街を抜けて更に東に走ると草が姿を消して、砂漠が広がる場所にまで来たわ。日も暮れてるってのにどこまで連れてくつもりなのよ。
砂漠のど真ん中で馬から突き落とされると、馬上から冷たい視線を突き刺して来る。
「国に逆らうからだ、二度と戻って来るな。もし街で見かけたら今度は投獄するぞ!」
捨て台詞が嘘とも思えないような内容でぞっとした。騎馬が西へと戻って行く。
「え、なに、本当にあんなことで国外追放なの? いつも頑張ってたのに? ……は、ははは、何よ私ってバカみたいじゃない」
無理な仕事でも何とかこなしてきて、今日だって祈願が足りないからって居残って働いてたのに。その場にへたり込むと砂を掴む、さらさらと指の間を抜け落ちて行ってしまう。このままここで死んじゃうのかな、まあもうどうでもいいけど。
過労と眠気で無気力になるとそのまま砂上に倒れ込んでしまい意識を失う。どのくらい意識を失っていたんだろう、何だか寒いと目が覚めると昼になってたわ。砂塵が上がってるのが見えた。
なんだ、戻って来てくれたのかな? 流石にあれで国外追放はないわよね。でも暫くしてからそうじゃないことに気づく。
茶色のマントを翻して馬を駆けてきたのは見たことが無い男の人。三十歳くらいなのか、落ち付いていて堂々としている。こちらにやって来ると馬を降りて、砂の上に倒れ込んでいる私を助け起こした。
「そこの女神様、なにとぞ我が国においで下さい!」
「……え?」
女神ってほどの美形でもないし、こんな立派な人に下手に出られるような立場でもない。行き倒れているだけの女にこの人は何をいってるんだろう?
「降雨を祈願できるお方が追放されたと耳にし、砂漠を探し回っておりました。何卒我が国にいらして、そのお恵みをお与え下さい!」
マントを外して私にかけてくれて、革袋から水を飲ませてくれた。無精ひげがうっすらと見えていて、どこを見ても砂だらけ。ああこの人は本当にずっと砂漠を探し回ってくれてたんだ。
「……はい、私で良ければ」
脱水症状のせいか頭が痛くて自力で起き上がることも出来そうに無かった、すると男がひょいと両腕で抱えて立ち上がり馬に乗せる。落ちないように抱えたまま東へと進んでゆくと、乾いた風が吹きすさぶ谷間の街があった。
乾き切った土のせいで常に埃っぽい、やせ細ったヒドイ土地。眩暈がして意識がまた遠くなって行きそうになって、街の人が迎えに出てきて口にした言葉が最後に聞こえるとまた気を失ってしまった。
「陛下、お帰りなさいませ!」
……へい、か?
◇
目覚めてから二日目、ようやく体調も戻って来てかさついていた肌もマシになってきた。質素ではあったけど食事も与えられて、新しい衣服も用意してくれた。午後になってあの男の人が面会にやってきたわ。この前とは違って無精ひげはちゃんと剃られていて、ビシっとした服を着てる。
「少しは落ち着かれましたか?」
「あの、ありがとうございます、あのままだったら私」
男は小さく首を左右に振って「あなたが気にされることなどなにもないのですよ」笑顔で忘れた方が良いと言ってくれる。あの兵たちとは雲泥の差ね! あ、そういえば。
「エクセル・エターナルですわ」
「素晴らしい名ですな。申し遅れました、私はロリアンの王でフィリップ・ローデシアと申します。巫女エターナル様に、今一度助力をお願いしたく参上いたしました」
やっぱり王様だったんだ! 陛下ってそういうことよね。ってかそれよりも、私の前で跪いてそんなこと!
「や、やめてください陛下。私なんて役立たずで国を追い出されるような女ですから」
キッと顔をあげると王様は「ご自分を卑下なされることは御座いません。かの国では貴女の価値を見誤っているのです」怒りを抑えてそんなことを。私の為に怒ってくれてるの? なんだろ、なんか凄く……
「はい。こんな私で良ければロリアンに置いてやってください」
「おお、わが国で祈祷して下さると!」
「ええ喜んで。大したことは出来ないですけど」
だってちょっと雨を降らせるくらいの祈りしか出来ないんだもの。黙てったって雨は降るし、だから別の祈りにかり出されて、ねえ。ところが王様は口を結ぶと涙を流した。え、なんで?
「ロリアンは乾いた土に乾いた風、常に水不足で貧しいのです。雨が降るとなれば多くの者が救われることに。神は我等を見捨てはしなかった!」
ちょっとそれって大げさな気がするけど、そんなに困ってたんだ。それなら私でも何とか出来るかも。
「そこまで困っていたんですね。直ぐに祈祷の準備をします」
立ち上がると両肩に手を置いて「まずは貴女の身体をお休め下さい。そのお心だけで充分救われております」急ぐことは無いって。今の今まであの国でこんな扱い受けたことなんてないわよ。
「それでしたら今日は休ませて頂いて、明日の夕刻に祈祷を行います。神殿に案内していただけますか?」
「お任せ下さい巫女様。私がご案内さしあげます。本日はどうかご自愛を」
そういうと部屋を出て行く。丁寧に扉の所でも礼をしてからよ。ロリアン国王フィリップ・ローデシア陛下、最高じゃない!
いいわ、そういうことならこっちだって仕事のやりがいがあるってものよ。今までで一番の祈祷をしてやろうじゃないの!
休めって言われてるのに気合いを入れて準備するあたり、私も結構やけになってたのよねきっと。
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