勇者パーティーを追放されたけど勇者以外の仲間たちは僕に着いてくるそうです。

篁灯

第1話クビになりました。

「シオン、お前足手まといなんだよ。 出て行け」


 部屋へ入るなり、いきなりそんなことを言われた。

 僕にキツく当たる精悍に整った顔と豪華絢爛と言う言葉で言い表わせるほどの鎧を纏った勇者キース様が机の上に脚を置きながら悠々と言ってきた。


「な、なぜですか? 今まで上手くやってこれたではないですか? それをいきなり出て行けなんて!」


「知るかよ。 邪魔なんだよ、お前は」


 勇者様は酒瓶を昼間からラッパ飲みする。

 勇者様はみんなが思っているほど高潔なお方ではなかった。めっちゃクズな人だ。


「いいか? このパーティーはな、俺様のハーレムなんだよ。 聖女に姫騎士、巫女、歌姫ーー全部俺のだ。 そこに一匹空気読めねぇ雑魚がいて目障りなの、分かる?」


 若干顔を赤くなっている。酔いが回ってきたのだろう饒舌に語り始める勇者様。

 勇者様が他の人たちを狙っているのは分かる。ただ、僕目線では脈無さそうだけど。本人たちによく愚痴を聞かされていたのだから間違いない。


「その、勇者様。 せめて、退職金を頂かないと」


「あ? ちっ、分かったよ。 ほら」


 勇者様が小袋を投げつけてくる。何とかキャッチすると、案外重かった。中身をすぐさま確認する。


「え? あの全部小銅貨ですよ」


「お前にはその端金で十分だろうが」


「そんな、これだけじゃーー」


 が、その先は言えなかった。勇者様が右手を僕の方へと向けてきたからだ。


「ギャーギャーうるせぇぞ。 死にたくなかったら今すぐ失せろ」


 これ以上は食らいつこうとしたら殺される。そう判断した僕は小袋を懐にしまい、部屋をでる。


 これからどうすればいいのか。

 

 僕は無職になった。


☆ ☆ ☆


 クソゴミのシオンが立ち去った部屋にて。


 俺は1人祝杯を挙げていた。何せ邪魔だったシオンが抜けたのだからな!あいつは本当に邪魔だった。シオンがいたら嫁共が照れてイチャつけなかった。だが、これからは気にせず毎日取っ替え引っ替えだ。全員とヤルッてのもありだな。そう思うと股間が熱くたぎってきた。


「まずはアリスからだな」


 思い出すは姫騎士だ。金色の髪に綺麗な貌、そして豊満な身体。アイツは1番最初に食っておきたい。他の女も皆アリスと同レベルの美少女ばかりだが、1番の好みはアリスだ。アイツは正妻にしてやろう。


「あー、たまんねぇな、おい!」


 これからの未来を肴に酒を一気にあおる。


☆ ☆ ☆


「どういうこと!? シオンが勝手に抜けたなんて! ありえないでしょ!」


 私は今、色々な感情がゴチャゴチャしていた。自分でも冷静でないことは分かっている。でも仕方なった。大切な人が消えた言われたのだから。


「お、落ち着いてください。 とりあえず、話しを聞がないと」


「そんなの聞いてる暇があったら、探しに行くべきよ!」


 私は聖女セリアに大声で怒鳴りつけてしまった。


「……ごめんなさい。 冷静じゃなかったわ」


「いえ、大丈夫ですよ。 不安なのは同じですから」


 私より1つ年下なのにしっかりしている。それに比べて私はどうだろうか?直ぐに飛び出そうとして、情けない。


「それで、詳しく聞かせてくれますか? 勇者様?」


 ずっと静観していた巫女の愛那が口を開く。


「いや、俺も何が何だか……。 いきなり、『着いて行けないです。すみません』って言って出ていったんだよ」


 嘘に決まってる。この男はずっとシオンのことを疎ましく思っていた。きっと、脅迫して追い出したに違いない。


「てかさ、もういいだろ? あんな雑魚なんてよ。 足引っ張ってばかりで」


「何言ってるの? シオン君が居てくれたからボクたちここまでやってこれたんだよ?」


 歌姫のカミラが不快そうに反論する。そうよ、私たちが五体満足でここまで来れたのはシオンが入念な準備をしてサポートに徹したおかげなのに、この勇者はそれが理解していない。


「あんなの居なくてもやっていけるだろ? 俺らもう、レベル50代なんだからよ」


 この勇者の全てが嫌いなのよ。弱きを助けずに力を振りかざす理不尽の権現。それがこの男よ。それに比べてシオンはとても優しい。常に私たちを気遣ってくれるし、自分のことを顧みず助けることができる。実力は伴っていないけど、その在り方は勇者より勇者しているわ。


「決めたわ。 私もパーティーを抜ける。 シオンを探しに行くわ」


「はぁっ!? 何言ってんだよ!? 魔王はどうすんだよ!?」


「貴方は勇者なんでしょなんとかしなさい」


「無茶言うなよ! あんな奴のためにそこまでするのかよ!?」


 勇者がギャーギャー喚く。口を開けば、シオンを馬鹿にした発言ばかりで不愉快なのよ、本当に。


「では、私も抜けさせ頂きますね」


「はぁ!?」


 愛那が私に便乗する。


「ボクも抜けさせて貰うよ。 正直彼なしのパーティーに興味ないし」


「あ、あの、わたくしもシオンさんに恩を返さないとですので……。」


 カミラ、セリアの2人も続く。


「待て、待て! おかしいだろ! 魔王どうすんだよ!? なんで、勇者の俺よりクソゴミのシオンなんだよ! あり得ないだろうが」


 勇者が癇癪を起こした子供のように地団駄を踏む。こういうところが無理なのよ。自分の思い通りにいかないと気が済まないなんて、子供にもほどがある。まぁ、個人の感情でパーティーを抜ける私も同じだけど。


 こうして、シオンの知らない所で勇者パーティーは事実上の解散となったのであった。

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