旧き世界の分岐記録/外伝

@axlglint_josyou

前日譚─1「鋼鉄師団」

「降って湧いた神龍殺しジークフリート・・・ですか」


竜狩り、ヤマト支部。

変わり始める流れ、その一端の物語。

依頼を受けている小柄な女性は静かに、そして若干の訝し気に呟いた。

その呟きに、現在のヤマト支部にいる責任者かつ依頼主である男・・・ジャイロ=キロンギウスは無理もねえや、と返す。


「竜に対抗するには兵器や異能、それらが当たり前であった中でそのどちらも一切扱わずに竜を狩り続ける奴らがいる。巷では奴らを神龍殺しジークフリートと呼び・・・そして自称もしている。


しかし以前から活躍していたわけではなく、ここ数か月で急に現れた。

どうも、奴らはあの白い杭ホワイトパイルの弟子たちのようでなぁ」


白い杭ホワイトパイル

これもまた人の身一つ、白き大型の杭一つで竜を殲滅する男であったが、決して竜狩りからのスカウトには乗らなかった。

決して他力を頼らない男が弟子を取り、しかも一人前になったからなのかは知らないが師の手から離れて活躍し始めた・・・というのは白い杭ホワイトパイルを知る身からしても興味が湧かないはずがない。


「つまり、スカウト目的であると同時に情報が欲しいと」

「そうだ。だから"お前さんの眼"を頼りにするという訳だ───リサ・トロイメライ」


白っぽい肌で左目が灰色、右目が黒。髪は黒でぱっつんかつ後ろで少し結んでいる女性はお手本のような敬礼をする。


「了解しました。その依頼、謹んで受けさせていただきます」

「よろしく頼む」







竜は、人々を襲う怪物たちの総称。

かつて神話や御伽噺にて馴染んでいた幻想という意味合いは既に欠片もない。

人類の優位性はその怪物たちによって打ち砕かれた。


言ってしまえば──恐怖の象徴だろう。

生活圏をいつ脅かすのか分からない。

いつ身近にいる誰かや自分が無惨に殺されるか分からない。

怪物たちは常に突然現れる。

喰らい、燃やし、壊し、そして滅ぼす。


人類は生活圏を限定して生きることを強いられ、そしてそれは万全ではなく保護する為の地区が滅ぼされた前例など山ほどある。

しかし、人類には竜狩りという組織がある。

上位種が現れたからといって震えて滅びを待つほど、人類は大人しくはない。

竜に対抗する兵器が開発される、或いは人員を育てるという風になるのは至極当然の結論であり、それによって一定の成果を挙げた。


各国に竜狩りの支部があり、竜の襲撃を退けたという話はある種の英雄譚となり、人々に希望を見出したことは言うまでもなく。

また、守りきれずに竜狩りが死亡し、保護区は滅ぼされたという更なる絶望を生み出したこともまた言うまでもない。


極端な希望と絶望によって人々は、竜狩り以外に救いを求めるようになったのは何時からか。

カルト的な組織が出来てしまうのもまた、人類の性というやつだろう。

ましてそれが、人ならざる偉業と思えてしまったのなら────尚のことだ。






───草木も眠る丑三つ時、ヤマト国内。

保護区から離れた集落に、竜たちは現れた。

その姿は人と同じ身体を、弦や葉といった植物に纏われたような、まさしく怪物になったような集団。


そんな竜たちは散り散りとなって街を襲ったりするはずが、張り詰めた空気で戦列を並べて一箇所を睨む。


怪物にも個体に寄るが人と同等か、それ以上知能を持つ者たちは当然という選択肢を持つ。

そんな怪物たちがいったい何故そのような行動を取るのかと問えば、理由は大概決まっている。


「見えてきたぞ野郎ども。あそこが今日の死に場所だ」


怪物にとって脅威に値する外敵──その到来を察知出来たからに他ならない。


そして、その脅威の先頭に居る者の言葉の瞬間──ガチガチと、ギチギチと、まるで鋼鉄の髪切虫が牙を鳴らしているかのように。


響き渡る奇々怪々な金属の摩擦音。

彼らは、まさに竜狩りと呼ばれる者たちだ。


「想定以上に化け物どもの練度が高い。頭はちゃんとあるようですなぁ。

評価を上昇しまして、と」

「それでは司令、どうします?」


彼らは決してではなく、でもない。

修羅場を何度も潜り抜け、無くした四肢を鋼鉄に変えながら磨き抜かれた戦士ヒトである。

熟達であり、精鋭であり、そして最新式である。


「決まってんだろ」


だからこそ──


「正面からだ。踏み潰せ」

「「了解、了解───ふははははッ!」」

「「我ら鋼鉄師団フルメタル、鋼の巨人に栄光あれ!」」


ヤマト支部責任者であり司令であるジャイロ=キロンギウスが抱える精鋭たちは、このヤマトを守り抜く為に、竜を狩る破壊魔として君臨するのだ。


「総員構えろ!時代遅れに遠慮はいらん!刺して裂いて殺し尽くせ!」


視認、会敵──怪物たちは牙を剥く。

怪物たちのリーダーの言葉と共に、無数の触手が大地を裂きながら鋼の兵士たちに向けて伸びてくる。

それらは一切が、鋼を貫き切り裂くモノ──決して植物の範疇に収まりはしない。


しかし鋼の兵隊は止まらない。

当たれば死ぬようなモノが無数に襲いかかる?そんなものは見慣れているぞと言わんばかりに触手を弾いて進む。

そう、だ。司令が下した命令の通りに誰も彼もが火矢のごとく駆け抜けて、左右に避けるそぶりすらない。

鋼の四肢や獲物で真正面から弾きながら、標的に踊りかかる。

結果、苦もなく隊列えものに食いついた。


「馬鹿な、いったいどうなって・・・ぐああああッ!」

「こいつらどんな身体をしているんだ!の癖に・・・!」


怪物の血飛沫に濡れた混乱の叫び。

怪物としては当然の疑問だった。

壮大な大地を苦もなく根を張って、鋼を貫く弦を全身に纏っている以上、ただのサイボーグなど敵ではないはずなのに──


無論、サイボーグ化によって身体能力が格段に上がっている事実は重々に承知した上でのこと。

それとも怪物たちが把握する以上に、この鋼は強固で高性能だというのなら


「おのれぇぇぇぇッ!!」


力押しには力押し、より触手を収縮させてより破壊に適した形に変化させて構え。

刹那、それは超高速で弾丸のように鋼の群れへと放たれた。

鋼をも裂く触手がより破壊に適した形にもなれば、誰の目にも明らかな過剰すぎる暴力なはず。


──だからといって、ああそれが?


「シャアアアアアアッ!!」


迸る閃光──そんな現実など知らんとばかりに、理不尽が罷り通る。

鋼の兵士の一人が放ったのは、真っ向からの正々堂々とした唐竹割り。

鋼鉄師団フルメタルの握る刃が、いっそ見事というべき斬鉄で迫る暴力を両断した。


「・・・、は?」


ぽかんと、思わず漏れた間抜けな声を最期に怪物のうち一体の首が飛んだ。

返す刀で隣の相手も輪切りにし、踊るように触手を蹴りはじいて脳天を突き刺していく。

生き残りが受けた衝撃の光景から目が覚めた怪物が周囲を見渡せば、似たような光景がそこかしこにあった。

つまり先ほどの芸当がまぐれでも奇跡でもなく、この鋼の兵士たちならば誰でも可能な技能だと理解が及び絶句する。

気づいた者から順番に、動揺の波が伝播した。


いや、まさか?馬鹿な、それこそありえない。

驚愕する怪物を眺めながら、ケタケタと鋼の兵士が笑う。

それは嘲りと共に、種のない種明かし。


「気合と努力と改造手術テクノロジーだ。つまりは心技体ってやつだよ。分かれや、阿呆」


分かってたまるか──そう顔を覆う植物の奥で迸りかけた絶叫ごと、また一つ切り離された首が飛んだ。


何のことはない。それは単純な総合戦闘力による賜物だった。

現在使われているサイボーグ化の技術に加え、改造では足らない部分を胆力と技術で補っている。

彼らが心技体と謳ったように、どれも粗末に扱っていない。

すべてを等しく高水準で磨いている。だからこそ。これほどまでに強いのだ。


怪物たちが考えていた計算上の性能は何も間違ってはいなかった。

ただ人間という低性能が無理やり身体を鋼に変えて涙ぐましい無駄な努力をしているという怪物たちの思い込みと、此処で証明されている改造で得た鋼に見合う心と技を備えていたという正真正銘の強者であるという実態という決定的な違いがあっただけのこと。


よって恐怖の象徴である竜たちは、この戦線において圧倒的な劣勢に持ち込まれていた。

人間の持つ現状の科学力の結晶。

手足を失った歴戦の戦士が、更に磨き続けたという技の結晶。

そして怪物に恐れず、そして仲間を心から信頼して立ち向かう心の結晶。


まさに兵士として生涯を賭した者たちの完成形と言えるだろう。


「化け物め・・・!」


あろうことか。

追い詰められている怪物側から、そんな言葉が震えながら静かに響く。

それこそまるで、竜に追い詰められていた人間のように。


「あん?何を言って・・・まぁいい、死んでくれ──」


その様子に違和感を感じた兵士の一人は首を傾げたが、それはそれ。

どうあれ竜となっているからには殺すべきだと、あくまで兵士の務めを果たすべく怪物は鋼に蹂躙される、その刹那──




「──狼狽えてはなりませんよ、私の眷族たちよ」




不遜、そして悠々とした声色が戦場に響いて



大地をより鋭く裂く触手が、最前線にいた兵士たちを斬り裂いた。

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