第129話 許せない
ドンッ!!
会場から少し離れた、エドモンド公爵家の屋敷の影。
壁に向かって、エリンは思い切り拳を叩きつけた。
「意味!! わかんない!!」
ドンッ! ドンッ!
何度も何度も、エリンは拳を叩きつけた。
瞳には火花が散るかのような激情を纏い、身体は怒りで震えている。
先ほどの一幕を思い返す度に、はらわたが煮え繰り返りそうだった。
このお茶会で、溜まりに溜まった鬱憤をアメリアで晴らすつもりだった。
しかし、結果的に正反対の状況になってしまっている。
婚約者を侮辱したとローガンに咎められ、明確な怒りを向けられたのだ。
元々身内だとはいえ他家の、それも自分より遥かに格の高い名家の婚約者に無礼を働くなんて良くて実家に抗議文、下手すると賠償金を請求されるかもしれない。
ただでさえ事前にアメリアには近づくなと言い付けられた上でこの有様である。
父セドリックに叱り飛ばされるのは火を見るより明らかだった。
「なんで! 私は……!! 私は悪くないのに!」
ぎりりと、頭皮に爪を立てる。
この期に及んでも、エリンは自分の非を認めようとしない。
子供の頃から、アメリアを下に見るよう両親に言われてきた。
愚図で無能だから、産まれちゃいけなかった子だから。
様々な理由でアメリアを虐げて良い理由を刷り込まされてきた。
エリンは疑いもせず両親の言葉を信じ、嬉々としてアメリアを虐げてきた。
そんなアメリアが今や公爵家の、それもとんでもない美丈夫の婚約者で、ちゃんと愛されているだなんて。
「認めない認めない認めない……!! 認められるわけがない!!」
声を張り上げるも、先ほどの光景が頭に浮かんでくる。
躓きそうになっていたアメリアを優しく抱き止め、エリンが嫌味を言った時は怒りの感情を露わにしたローガンを。
アメリアがローガンに大切にされていることは、この短い時間で嫌と言うほどわからされた。
底知れぬ嫉妬の業火がエリンの心を燃やす。
今まで徹底的に下に見ていたアメリアが、自分では手が届かないような男性と懇意にしているという事実が、エリンに大きな敗北感をもたらしていた。
「許せない……」
ぎりりと、エリンは歯を鳴らす。
エリンもそれなりに見てくれは良いため、貴族の令息に言い寄られた経験は少なくない。
しかしその中で、公爵家ほどの格の高さと、ローガンほどの美貌の持ち主はいなかった。
なんなら、どちらか一方を持っている者すらいない。
社交界に身を置いている時間が長いと、自分がどのレベルの男性と結婚できるのか何となく理解できるようになる。
今の自分の格で、ローガンほどの男性を婚約者にすることは……。
ダンッ!!
足を踏み鳴らし、エリンは思考を中断させる。
「はあ……はあ……」
息を切らしながら、徐々に激情を静めていくエリン。
それでも気が収まらないのか、手に持っていた扇子を真ん中からへし折る。
本日2本目の犠牲者であった。
「このままじゃ、終わらないわよ……」
未だ怒りの炎を燃やして言うエリンだが、直接的な嫌がらせはもう難しいだろう。
(何かいい方法は……)
ガリッと爪を噛みながら考えていると。
「間もなく茶葉の読み解きを開催しますー! 参加希望の方はお集まりください!」
背後で一際大きな声が聞こえてきた。
振り向いて見ると、会場の中央あたりに人だかりができている。
「茶葉の読み解き……」
エリンはハッとした。
そして、名案が浮かんだとばかりに口元をニタァと歪ませて。
「いいこと思いついちゃった」
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