第125話 予想外の光景
「なっ……!?」
エリンの目に飛び込んできた光景は、自分が期待したものとはあまりにもかけ離れていた。
ざわざわと、会場が今までの空気と違うものになる。
受付からゆっくりと、こちらに歩いてくる二人。
まずはへルンベルク家の当主、ローガン公爵。
目鼻立ちが整っているとは聞いていたが、実際の容貌はそんな言葉で形容できるレベルをはるかに超えていた。
まるで神話から抜け出たような、圧倒的な美がそこにあった。
神が細部にまでこだわりを持って精巧に作り上げたかのような顔立ち。
シルバーカラーの髪は太陽の光を浴びて眩く輝いている。
静かに前を見据える瞳は深く蒼い空の如く、中では鋭い輝きが宿っていた。
高い背丈と鍛えられた身体はスマートに、黒のタキシードを着こなしている。
その圧倒的な存在感は、会場にいる者たちの視線を釘付けにした。
「あれが、噂のローガン公爵……?」
「うっそ……物語の世界から出てきた人みたい……」
取り巻きの令嬢たちからうっとりとした声が上がる。
別に婚約者がいるにも関わらず目にハートを浮かべる者もおり、ローガンの美貌に完全に魅了されている様子が見て取れた。
彼は間違いなく、エリンがこれまで目にしてきた貴公子たちの中で、ずば抜けて高い容貌を持った男性だった。
しかし、エリンが驚くべきはローガンだけではなかった。
(あれが、お姉様……?)
ローガンと腕を組み、優雅に歩く姉アメリアに、エリンの視線は釘付けになった。
記憶にいたアメリアの姿は、そこには存在していなかった。
精巧に彫刻された芸術作品のように整った顔立ち。
雪のように白い肌は、太陽に負けぬほどの輝きを放っている。
シルエットは細くしなやかでありながら、健康的な体躯だった。
アメリアが歩くたびに波打つブルーカラーのドレスは高級な仕立てで、エリンのものとは比べ物にならないほどの上質さを誇っていた。
実家にいた頃の、汚らしくやせ細っていたアメリアとはまるで別人のようだった。
へルンベルク家での健やかな生活と、一流によるコーディネートによって、アメリアは絶世の美少女へと変貌を遂げていた。
「おいおい誰だよ、醜穢令嬢とか言ったやつは……」
会場のどこかから驚愕した男の声が聞こえた。
まるで、妖精が舞い降りたかのような驚嘆。
「嘘……あれがアメリア様……?」
「綺麗……」
取り巻きたちが唖然とした様子で言う。
同性である彼女たちも、アメリアの美しさを認めざるを得ない。
それどころか、ある種の羨望の念を抱いていた。
(嘘……嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ!! そんなはずない……!! そんなはずがない!!)
驚き、嫉妬、怒り。
さまざまな感情がごった煮となった業火がエリンの心を燃やす。
ダンッ!!
落とした扇子をエリンは思い切り踏み潰した。
「エ、エリン様!?」
驚きの声を上げるイザベルに、エリンはにっこりと影のある笑顔を浮かべて。
「失礼、足が滑ってしまったわ」
取ってつけたように言うエリンに、「あ、あはは……お気をつけくださいまし」と頬を引き攣らせるイザベル。
ローガンとアメリアに見惚れていた他の取り巻きも、何事かとばかりにエリンをチラ見していた。
「さて、と……」
一転、何事もなかったかのように表情を切り替え、予備の扇子を懐から取り出してエリンは言った。
「お姉様に、挨拶をしてきますわ」
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