第79話 クロードという男
「ローガン様のお兄様……!?」
書庫にアメリアの驚声が響き渡る。
「はい、クロード様はローガン様の3つ上の兄です」
先ほどクロードから受け取った本の汚れを落としながら、シルフィが淡々と言葉を並べる。
「なるほど、どうりで……」
「似ている部分が多いですよね、顔立ちといい、雰囲気といい」
アメリアが思っていたことを、シルフィが代弁してくれる。
「性格は全然違いますが」
と、シルフィがどことなく棘を含んだ声を漏らす。
「クロード様は、トルーア王国軍所属の軍人です。普段は軍務に当たっているので、この屋敷にいらっしゃるのは珍しいのですが……」
(やっぱり、軍属の方だったんだ……)
妙な納得感を抱きつつ、頭の中で記憶の糸が伸びてくる。
──代々武道家の家系だったそいつの両親は、そいつよりも武術の才も秀でている兄の方に愛情を注いだ。
以前、ローガンが漏らした言葉だ。
あの時、ローガンの瞳には複雑な感情が渦巻いていた。
ローガンとクロード。
二人の兄弟の間に何かしら確執があったことは想像するに容易い。
(大きくて、威圧感のある人……でも、本を大切にしているみたいだったな……)
ちらりと、アメリアがシルフィの手元の本を見遣る。
その視線に気づいたシルフィが「ああ……」と口を開く。
「この本は、クロード様が前回、屋敷を訪れた際に持って行ったものですね」
「前回、ということは」
「ええ。クロード様は屋敷に来るたびにこの書庫に立ち寄って、本を一冊持っていくのです」
「なるほど、本が好きな方なのね」
なんでもない風にアメリアが言うと、シルフィは「ええ、おそらく」と要領の得ない言葉を口にする。
「でもその本、随分とボロボロのような」
「クロード様は軍人ということもあって、危険が伴う場所に行くことが多いのでしょう。ほぼ毎回、本をこのようにして持ち帰ります」
その声には、クロードに対する微妙な感情が込められていた。
少なからぬ尊敬と、彼の行動に対する困惑が混ざっているように見える。
「その度に、私が修繕しているわけですが……まあ、もう慣れましたけど」
子供が汚してきた服を洗う母親のように、シルフィが嘆息する。
(やっぱり奥が読めない、不思議な人だなあ……)
シルフィの話を聞きながら、アメリアはそんなことを思った。
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