第62話 変化
「んっ……!! このブルーベリーのジャム、美味しい!」
「昨日採れた新鮮なもののようです。私も少し味見いたしましたが、酸味が控えめで食べやすいですよね」
「後を引く甘さがあっていいわね〜。ちなみに、ブルーベリーは疲労回復とか美肌効果があって、とってもいい健康食なのよ。葉は紅茶にしたら美味しいし、良い事ずくめね」
「流石アメリア様、植物に関する博識ぷりは健在ですね」
「えへへ、それほどでも〜」
シルフィとそんなやりとりを交わしながら朝食を頬張るアメリア。
三食きちんとご飯が出る事に今日も幸せを噛み締めていた。
◇◇◇
──メリサ襲撃事件から、一週間。
あれから、アメリアの周りにいくつかの変化があった。
「ふう……今日も大漁大漁」
バスケット一杯に植物を採取してから、アメリアは一仕事終えたように額の汗を拭った。
「待たせちゃってごめんね、シルフィ」
「お気になさらず。これが仕事ですので」
草採取の間、シルフィはずっとアメリアが見える場所に控えてくれていた。
一つめの変化。
アメリアのそばにはずっと、シルフィが控えてくれるようになった。
一人の時に先週のメリサ襲撃事件のような状況になった時は取り返しがつかなくなるという事で、就寝中の時以外はシルフィを中心として誰かしら使用人をつかせる指示がローガンから出たのだ。
むしろ最初からそうするべきだったと、アメリアの身を第一に優先するべきだったとローガンに何度も何度も謝られたのは苦い思い出である。
メリサの侵入に関しては、元はと言えば自分の不注意が主原因でもあったのでお互い様だった。
植物採取した後は、アメリアのために新たに充てがわれた部屋に植物たちを格納する。
これも小さな変化。
最初は自室に植物を運んでいたが、タコピーの葉の中に潜んでいた芋虫がにょろりと這い出し、シルフィが甲高い悲鳴を上げてしまう。
これをきっかけにローガンに、植物を格納できるスペースはないかと相談したところ、もう使っていない広い部屋がいくつかあるから好きに使っていいと、神様かと思うくらい素敵なお許しを頂けた。
流石は公爵様、太っ腹である。
アメリアはその部屋を“楽園”と名付け、採取した植物をきちんと箱に区分けし保存したり、調合してみたりと、いわゆる研究室のような使い方となった。
もちろんその際もシルフィが控えている。
その影響か、シルフィ自身も少しずつ植物に詳しくなっていって、花や草が持つ奥深さにちょっとずつ興味関心を抱いていた。
アメリアの植物フェチの沼にシルフィが引きずり込まれる日は近いかもしれない。
格納が済んだ後のアメリアの行動にも、変化が生じた。
屋敷内にある書庫へ行き、黙々と本を読むのが日課になったのだ。
ただただのんべんだらりするのはアメリアの性に合わず、暇を見つけては勉強に励むようになった。
実家にはなかった書籍を読めて、自分の知らない知識に出会えるのは好奇心と知識欲が旺盛なアメリアにとって至福の時間でもあった。
もちろんこの時もシルフィが同行以下略。
そして最後の変化。
これはアメリアにとって最も大きくて、嬉しい変化であった。
もう日が傾き、書庫の窓から見える景色に薄暗闇が差してきた頃。
「アメリア様、そろそろご夕食のお時間です」
「今行くわ!」
シルフィのこの呼びかけを聞いた途端、アメリアは栞を挟んで本を閉じた。
どれほど読んでる途中の本が面白く、没頭していても即座に現実に戻って来れる。
なぜならば夕食というイベントが、今のアメリアにとって一番楽しみなのだから。
……夕食のご飯が一番美味しいから楽しみ、といった食い意地の張った理由ではない。
食堂へ向かうアメリアの足取りは軽い。
ふふふーんと鼻歌を歌っていることから彼女の機嫌の良さが伺える。
夕食が楽しみな理由、それは──。
「お待たせいたしました」
食堂に足を踏み入れると、先客がいつもの席で待っていた。
「俺も今来たところだ」
低音ボイスが鼓膜を心地よく震わせる。
恐ろしいほど整った顔立ち、長めに切り揃えられたシルバーカラーの髪は触るとふわふわしてそうだ。
横一文字に結ばれたくちびるは不機嫌そうだが、別にそれは彼のデフォルトの表情で怒っている訳ではないとアメリアは知っている。
彼のイチオシポイントであるブルーの瞳は美しさの奥に鋭い刃物のような鋭利さを感じさせ、目を合わせると引き込まれて離せなくなりそうだ。
ローガン・へルンベルク。
アメリアの夫となった公爵様。
毎日の夕食は、ローガンが必ず一緒に食べてくれるようになったのだ。
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【タイトル】
冰の令嬢ヒストリカが幸せになるまで〜「女のくせに出しゃばり過ぎだ」と婚約破棄された子爵令嬢は、醜悪公爵の病気を治し溺愛されるようになったので毎日が幸せです〜
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