第12話 その薬は……

 もう大丈夫だと主張するアメリアだったが、ローガンの指示により念のため医者に診察して貰った。


「ええ、特に問題はないようです」


 医者の言葉に、場にいた面々がほっと安堵の息をつく。


「ただ、栄養がかなり失調気味ですね。あと、睡眠もあまり取れていないと見受けられる。しっかり食べて、寝て、安静にするようにしてください」


 そう言い残して、医者は食堂を後にした。


「それで……それはなんだ、アメリア?」


 ローガンが、空になった小瓶を指さしてアメリアに尋ねる。


「えっと……回復薬ですね。主にお腹に効く効能の……」

「つまり、胃薬?」

「はい。さっきの腹痛は恐らくですが……ずっと長い間、あまりお腹に物を入れていなかったので、栄養が突然流れ込んできて胃がびっくりしたのかと」

「ようするに……食べ過ぎによる腹痛、ということか?」


 ローガンが総括すると、アメリアは頬をりんご色に染めて勢い良く頭を下げた。

 

「お騒がせして申し訳ございません! 完全に私の落ち度でございます……この家の料理が美味しすぎたとはいえ、我も忘れて貪った挙句、お腹を痛めて皆様にご迷惑をかけるなど……淑女としてあるまじき振る舞いでした」

「いや……」


 正直なところ、ローガンに怒りの感情は微塵もなかった。


 本来であれば咎める場面なのかもしれないが、公の場でもないのにアメリアに対して淑女らしく振るまえと硬いことを言うつもりはないし、別に彼女に悪意があっての所業というわけではない。


 なんというか、こんなことで叱責するのは器が小さすぎるような気がした。


 それよりも何よりも、ローガンは気になることがあった。


「ハグル家には、著名な調合師がいるのか?」

「調合師……?」


 ローガンの質問が腑に落ちず首を傾げるアメリアに、オスカーが説明する。


「先ほどアメリア様が飲んだ薬は、その即効性といい効き目といい、かなりの効力を持ったものです。王都で手に入る最高クラス、いえ、もっと優れた代物だとお見受けいたしました」

「ええっ……!? そうなのですか?」


 今初めて知ったようなリアクションに、オスカーの眉がピクリと動く。


「はい。なので、ハグル家には非常に優秀……どころか、王宮に勤仕するレベルの調合師がいらっしゃるのかと」


 オスカーの説明に、アメリアは何か居心地の悪そうな、微妙な顔をした。

 その変化に気づいたローガンが、眉を顰める。

 

「アメリア?」


 何か、隠していることでもあるのだろうか。

 ローガンがアメリアに顔を寄せると。

 

「……私が、作りました」

「…………今、なんと言った?」


 悪戯がばれた子供のように目を逸らして、アメリアは蚊の鳴くような声で言った。


「この薬は、私が作りました」

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