リバーシブル
雄蛾灯
処女作です
これはとある夫婦が交わしていた会話である。
「…… 」
「やめッ、きゃあああああああああああああ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「やめて…… !来ないで」
男は女の方にどんどん近づいてくる。
「俺にはお前が必要なんだよ」
「な、何を言ってるの……」
「あとはお前しかいないんだよ……」
そして男は急に、女の方に体を向ける。
「えっ⁉どういうこと……」
女はあまりにも唐突な発言に固まった。
「俺の人生も破滅寸前だ……」
男は顔を下に落とす。
「地位も名誉も失い、俺にはもう何も残っていないんだよ……」
「大丈夫だって‼ あなた一人が背負い込むことないわ‼」
「でも、やっぱり妹や家族も俺が殺したも同然だ‼」
男の目からは涙が流れていた。
「大丈夫だから」
「うぅ……」
「心配ないわ。私がついてるもの」
女は男を優しい口調で諭した。
「本当にありがとう…… でも、その…… なんていうか」
「ほら、今晩はあなたの大好きなハンバーグよ。これでも食べて気を休めてよ」
ふとテーブルの上を見ると、ナイフとフォークが一本ずつと、一目見るだけで
分かるぐらい柔らかそうな煮込みハンバーグの風味が漂ってくる。
「あ、うん。お前がいてくれて助かったよ」
「…… 何言ってんのよ。私はあなたの妻、あなたは私の夫なのよ」
男は女に気の抜けた口調で話しかけた。
「正直、この世に自分の居場所がないと思って、さっきは一人だけで自殺しよう
と思ってたからさ…… 」
「そうだったのね…… 。でも安心して。私だけはあなたの味方だから」
「さっき会社からはこの間の車両事故の責任を押し付けられ解雇、世間からも
目の敵にされて…… 俺もう……」
男は絶望しきった顔で憔悴していた。
「こんな時にごめんな」
「おかえりなさいあなた」
「ただいま…… 」
これはとある夫婦の悲劇の前日譚。
これは裏返し( リバーシブル) の物語
リバーシブル 雄蛾灯 @yomogi_monster
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます