第20話 小さな恋の、 いち
2、3話になると思います。よろしくお願いします!
リーゼは、アンドレイママのお友達です。
仕事~、の方に出ています。
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春うらら、な学園の昼休み。
「アンドレイ様!私共とランチはいかがですか?」
「ありがとう。でもごめんね。今春から、サージュ達が生徒会に入ってね。いろいろと引き継ぎで忙しいんだ。お昼休みも暫く空く予定がなくて」
「そうなのですね……」と、残念そうにしながらも、皆それぞれに引いてくれることに安堵する。俺は、「じゃあ、急ぐから」と、笑顔を振り撒いてその場を後にした。
俺は、アンドレイ=グリーク。このグリーク王国の王太子だ。現在、王立学園の最終学年になり、生徒会長でもある。この学園では、王族が在学中は、王族が生徒会長を務める慣例がある。小さな社会を治め、いずれは国を治める練習のようなものだ。俺が今年で卒業になる為、来年からは3つ下の弟のサージュに引き継ぎをする。ので、忙しいのも本当。
だが。
「女性は、逞しいわ……」
「生徒会室に入った早々に、何をぼやいているのですか、兄上」
引き継ぎがてら、最近はもっぱら生徒会室で昼食だ。サージュが先に着いていて、準備をしてくれている。
「ふふっ、無理もないわよ、サージュ。アンドレイ兄さま、モテモテだもの」
「リリアンナ……」
共に手伝いながら軽口を叩くのは、リリアンナ=レコット。サージュの同級生で、リーゼ様の長女だ。幼馴染みとも言える。サージュと共に、生徒会役員の見習い中。
「ようやく兄さまが動いてダリシア姉様との婚約が整うのかと思ったら、まさかの展開だったもの!そりゃあ気合い入るでしょ!他のお姉さま方は!!」
「そうだね、ダリシア姉様、本当に結婚したしね……」
「当たり前にするでしょ!すっごいラブラブだったもの!」
弟妹に傷口に塩を塗られつつも、それは事実なのだから仕方ない。けれど、もう少し優しさも欲しい。
俺の初恋であったダリシアが一年と少しの婚約期間を経て、今春の学園卒業と同時に、ルーエンとめでたく結婚式を挙げたのだ。
「お二人共、ほどほどになさいませ。アンドレイ様は本当に大変そうなのですよ」
とは、アリシャ=オーラン。子爵令嬢で、現・生徒会副会長。俺のクラスメートでもある。淑やかだが芯のある、学年次席の(もちろん首席は俺!)優秀な女性だ。気遣いの人でもあると思う。今だって、二人を窘めつつも、優しい笑顔だ。
「アリシャ嬢は優しいね。およそ一年前にヘタレ王太子が仕事が手につかない状態だった時なんて、一番大変だったろうに」
とは、生徒会の現・庶務、兼、俺の側近予定のラウネン=セグレート。口は悪いが、コイツもクラスメートで公爵令息だ。幼馴染みでもある。
「!あの時は、その……確かに、手間をかけたよね、アリシャ嬢」
ラウネンに言われるとイラッとするが、アリシャ嬢に迷惑をかけたのは本当だ。素直に謝る。ラウネンには言わないけどな!
「とんでもないことでございます。そのように言っていただける程のお役に立てたのかも……」
「有り難かったッスよ!会長が心ここにあらずでしたからね!」
「お兄様まで調子に乗らないの!」
便乗してきたのは、一つ下の学年の、ウィルとミラの双子の兄妹。彼らも庶務。キュール男爵家。小麦の栽培が盛んな領地で、『ルピナスシリーズ』でのパン部門担当家門と言ったところか。成績は言わずもがな、更に社交性のある二人で、頼りになる。サージュの代でも、庶務を引き受けてくれた。二人に副会長の打診もしたのだけれど、庶務が性に合っていると固辞されたのだが。残ってくれるだけ有難い。
そしてまあ、確かにあの頃は、何度振り返っても反省しかない。……全てに。
だが。
「アリシャ嬢以外は楽しんでいたよな……?」
「「「そんなことはない」です」よ」
「………………」
妙に気が合っている三人をジト目で見る。
「まあまあ、兄上。本日もめでたくご令嬢たちから逃げ切れたのですから、ゆっくり昼食をしましょうよ」
「そうよそうよ、はい、兄さま!」
「……元はと言えば、お前らが……!」
まあまあまあまあ、と、全員に窘められて、ようやく食事を始める。そんな様子を楽しそうに見ながら、アリシャ嬢がお茶を淹れてくれた。
「ありがとう、アリシャ嬢。君は生徒会の最後の良心だよね」
「そんな」
「本当~!美人でお淑やかで賢いのに、ひけらかさないですし!アンドレイ兄さまにも丁寧ですし!」
「こら、リリアンナ?後半おかしいぞ?」
「同感ですわ!アリシャ様、私たちにもずっと丁寧で……恥ずかしくなりますもの」
「そう思うなら見習いなよ、ミラ」
「アンドレイ様、も、もう、その辺で……」
俺たちの会話に顔を赤くしながら謙遜するアリシャ嬢。身近には元気な女性が多いので、彼女のようなタイプは新鮮だ。共に生徒会役員を始めて三年になるが、ずっと変わらない。
有難い事でもあるのだろうし、外で王太子らしくしている自分のせいでもあるとは認識しているが、ダリシアとの婚約が成立しなかった後からの女性たちの猛攻には、些か参っている。この気心の知れた空間は、今の学園では唯一の癒しなのだ。
「君たちが変わらずにいてくれることが、俺は本当に有難いよ」
今日も楽しいランチになったよ。
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