第5話 ルーエン=カリタス やっぱり可愛かったな
「はあ~…まず、ひと仕事終了か」
ダリシア嬢を見送り、自室でホッと息を吐く。
乗り気ではなかったし、今も正直あまりいい気分ではないが、ダリシア嬢との会話は思っていたよりも楽しかった。
話しているうちに、幼い頃の出来事をいろいろと思い出して来て。昔の面影を残しつつ、髪色と同じライラックのように美しくなったダリシア嬢が、淑女らしくしようとしながらも慌ててしまっている様も、とても可愛いらしかった。
無駄美人の無駄はいらないだろう?誰が言い出したんだ。
と、そこまで考えて。ハタと気づく。
「いや、ライラックとか可愛いとか…俺は、何を」
思わず一人言る。本当に何を考えた、俺。
そう、懐かしかったのだ。王城で会うと、「ルーさまあ!」と呼びながら、必ず王子たちと三人で後を付いてきて。一緒に遊ぶと花が綻ぶように嬉しそうに笑ってくれて。イタズラもなかなかだったけどな。……そんな昔を思い出しただけだ。
「毎回どや顔で木に登っていたよな。そうだ、氷の話の時の抑えた笑顔も可愛いかっ……て、違うだろ!いや、可愛いけどな?!」
ちょっと落ち着け、俺。いい歳して何をしている。
そもそも、任務だ。任務。忘れるな。当て馬、当て馬。ダリシア嬢からすれば、「幼なじみのお兄ちゃん」だ。うん、確かに丁度いい当て馬だな、俺。
それにしてもだ。魔法研究の話も楽しかった。知ってはいたが、改めてあのやんちゃな妹が優秀な研究者になっていたのも嬉しかったし。彼女は生活魔法に軸を置いて、俺は犯罪捜査寄りだけれど、二人で話すと研究の共通点も多く、あっという間にお見合いの時間が過ぎた。
「そう、きっと自分の研究の為にもなる……」
次にまた会うのは、その為だ。暫くは当て馬仕事もしなければならんのだろうし。一石二鳥だ。
アンドレイとダリシア《ふたり》が意識し始めるまでの間の話だ。
思えば確かに二人は仲が良かった。姉弟のようであったからなかなか気づけないだけで、きっとお互いに大切に思っているだろう。
「そうだ、四人で遊んでいても、二人がいなくなるとダリシア嬢が心配して探しに行っていたっけ……」
そんなことまで思い出したところで、ツキンと一瞬胸が痛む。また余計なことを考えた。いろいろと思い出したせいで、変に兄心が成長しているのかもしれない。妹を嫁に出すような感じで……って、止めよう。
今回せっかく長時間、研究の為の時間ももらえたのだ。少しでも早く開発をして、仕事に役立てねば。と、襟を正す。
「次に会うのは一週間後か」
それまでに、研究に一区切りをつけておかないとだ。ついでに、この微妙な兄心とも。いや、兄心はあってもいいのか?
「自分でも訳が分からなくなってきたな……本当に何をしている、俺……。いや、もう仕事だ!仕事をする!」
誰ともなく自分で宣言し、自白魔法道具の方式を書き込んだ書類を出す。
が、集中できない。なぜって。
『魔法って、不思議ですよね?調べれば調べるほど奥が深くて。つい、夢中になってしまいます。あっ、ルーエン様も分かります?わあ、嬉しいです!』
そう言って、とても嬉しそうに笑ってくれたダリシア嬢の顔が魔方陣の中にチラつくからだ。
やっぱり可愛かったな、と思ってしまう。
……幼馴染みの妹分だ。そりゃあ、可愛いに決まってるだろう。語彙力はないが、可愛いものは可愛い、悪いか!
そこはもう、開き直るしかなさそうだ。
後は、弟分と…二人が幸せになるように、きちんと兄で当て馬で、そうあればいいのだから。
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