第16話 白井一郎
白井一郎
ここからは彼いや彼女か…についての5年間を書いてみよう。
白井は泣き声で目を覚ます、だがそれは自分のではない。
見ると白井はちいさなベッドに寝かされており隣には赤ん坊が寝ていて涙を流しながら大きな声で泣いていた。
「お~よしよし、どうしたの?」
声の方を向くと頭に角の生えた灰色肌の女性が泣いていた赤ん坊を抱きあげる。
(これは?先ほどまで天使とかいうやつに何やら説明を受けていたが)
きょろきょろと周りを見回すが、壁にはろうそくのような明かりがともり窓はなく、この部屋には先ほどの泣く子どもと自分が寝ているベッドと収納用のタンスぐらいしか置いてない部屋だった。
赤ん坊をいやすのは生みの親ではなく魔族のメイド、そのメイドが2・3時間おきにやってきてはミルクやおしめといった世話をする。
そしてミルクは母乳だ、出産直後のメイドや町娘を使い乳母として雇っているらしい。
そして自分はどうやら双子のよう。
2人共に女の子で、メイドの話によるとどうやら魔族という人種らしい。
そして私はどうやら魔族の貴族、魔公爵の娘ということだ。
「フェンディ今日はあなたが乳母なの?」
「はい」
「気を付けてこの子だけ乳首にかみつくかもしれないわ」
女に転生を果たした白井だったが前世のスキルを引き継いだために、悪癖まで引き継いだ。
「お~よしよし」
その日は若い乳母の乳を吸っていたが、途中で乳が出なくなったためにその乳首にかみついた。
「ギャッ!痛い!」
乳首には小さな歯型が付き中ほどまで歯が刺さり乳首からは結構な血が出始めた。
当然その赤ん坊は血をすすることに。
しかも痛かったのは最初だけで血が出始めてからは逆に心地よい快感を覚え始めた。
よく見るとその血を吸いながら赤ん坊はにんまりと無邪気な笑顔を見せる。
(ああなんて素晴らしい世界だ)
この双子の名前はラクトルとミストル2人共に女の子。
長女 ラクトル・グラディ・サザラード
次女 ミストル・グラディ・サザラード(白井)
生まれた時間はほぼ変わらないがミストルである前世白井の方が次女らしい。
生まれたときにはそれほど差はなかったが1年もたつとすぐにその差が出始めた。
ミストルはすぐに立つと泣き止まないラクトルを蹴飛ばし始める。
赤ん坊のすることなので初めは笑ってみていたが、どんどんエスカレートしていき2年とたたずに双子は別々の部屋にて育てることに。
そして3年が過ぎミストルは立ちあがっただけで無くどんどん歩きだすしかも屋敷中を。
(高い建物は大好きだだから一番上に上りたい、階段は何処だ?)
ミストルは屋敷を探し回ると3階の端っこに鍵のかかった扉を発見。
天使から手に入れた魔法スキルを使いカギを壊すとその外へと出ることに。
そこは屋根の上そして外の景色は壮大だった、どこまでも続く街並みそして山や森といった自然も広がっていた。
「ふふふ……」
(さあこれから何をしよう)
天使にもらったスキルは20ほどそして自己スキル捕食と同化。
自己スキル捕食(いらないスキルを食べてしまう)
自己スキル同化(同系統のスキルを一つにまとめる)
魔法スキル(各種魔法が使える、魔法が使える世界でのみ有効※パッシブスキル)
魅了スキル(人に好かれる、※後天的スキル)
速足スキル(足が速い、※後天的スキル)
語学スキル(どの国の言語も話せる理解できる※後天的スキル・パッシブ)
記憶力スキル(記憶力が良くなる※後天スキル・パッシブ)
美形スキル(文字通り外見すべて美しい※パッシブ)
生活スキル全般(料理から掃除まで※パッシブ)
飛行スキル(空を飛ぶことができる※後天的スキル)
長命スキル(長生きできる最大で2千年※後天的スキル・パッシブ)
などなど、これ以外にも結構いろんなスキルを与えられたが、使えるスキルは10個ぐらいというところ。
同じ日に生まれた長女は私から見れば邪魔でしかないので後々無力化かもしくは下僕化するしかないが。
まあそれはもう少し後にしてもかまわない。
今からすることはこの世界を何とかして手に入れたいということ。
せっかく魔法の世界で転生したのだから、できればその頂点に立ってみたいと思っている。
しかも与えられたスキルの中にはこの国で最上の位に到達するのに有効なスキルがいくつか含まれる。
そのためにはいかにして他人を操り蹴落とし自分を上の位に持っていくか、前世ではうまくいかなかったがこの世界でならうまく行けそうだ。
(他人を操るのに楽なスキルも与えてくれたようだしな)
それに今回は女の体でスタートできるとは、この体を使いこの世界の頂点を目指してやる。
ミストル・グラディ・サザラードとして転生した白井一郎は、前世の記憶を引き継いだがその中にはDVの原因となった、責任転嫁や残虐性それに付き纏いなど犯罪属性がいくつかついたまま転生してしまった。
これらのスキルはついたまま成長すると、極悪人が誕生する可能性の高いものだ。
しかも生活しやすいようなスキルを嵩ましされて転生したために、悪事を続けながら大人になってしまうことが確実になる。
「お嬢様! お嬢様~」
(くそっもう来たか・・)
「なんでこんなところに、カギは閉まっていたはず」
「すぐ代わりのカギを持ってきなさい」
「はいかしこまりました」
メイド長は嫌がるミストルを小脇に抱えると扉を閉めた。
そこには明らかに魔法を使用した痕跡が見て取れたが、だれがやったのかはわからなかった。
(まさかお嬢様が・・・いやいやそのようなことはありえないわ)
「はなしぇ、う~~」
この屋敷の中で両親を除いてこのメイドだけはなかなか邪魔な存在だったが。
今のところ危害が加わるようなことはないのでミストルから見れば様子を見ているところ。
徐々にではあるがこのメイドも下僕となって働いてもらうことになるのだが、今はまだ少し早い。
この体で使える魔法の威力は先ほどの火属性魔法でカギを壊すぐらいがせいぜい。
しかも使った後の倦怠感、たぶんMP(マジックポイント)がギリギリだったのだろう。
気絶しなくてよかったが、魔法を使用するときは慎重に使わないと後が面倒だ。
(後々のことを考えると早く魔法の勉強をしなければ)
魔族とはいえ通常の人族との違いは外見と魔力の違いぐらいで生活水準はほとんど同じ。
魔公爵という位は王族の次の位だがミストルの両親は、母が前王の娘であり父がお爺さんから爵位を継いだという形。
この双子は一応王家とのつながりがあり、ミストルの王位継承権は13位、自分の前に王の実子と兄弟の子が6人、上は25歳から下は自分の姉までといった具合に立ちはだかる。
王となるにはそれらを全て片付けてしまわなければ難しい。
今の王は人族とは和平を結ぶほどの穏健派、まずはこの状況から戦争を起こすような事件を作らなければ乱世にはならず。
継承順位はそう言う事件や事故が無ければ上がることが難しい。
3歳でそこに梃入(てこい)れするには無理がある、だが情報はどんどん手に入れなければいざと言うときに対応できない。
魔族とはいえ人族と考えている事にそう違いは無いのだから。
連れ戻されたベッドの上で魔法の練習を始める、魔族は6歳になると魔法学院へと魔法の勉強をするため入学する。
魔法学院には貴族しか通うことが出来ないらしい、勿論王族も学院に通う為魔法学院は王侯貴族御用達となっている。
いくら他の魔族よりスペックが良かろうと、何もせずに学院へ入学したならば底辺をいつまでもうだつの上がらない平社員のようにはいずりまわらなければいけない。
最短で駆け上がり魔法学院自体さえ自分のものにしてしまわなければ、望みが叶う事もないだろう。
魔法の使い方はメイドたちを見ていれば解る、気の流れと言うか魔素の流れが、天使から貰ったスキルのおかげでよくわかる。
※ 魔力感知スキル(魔力の流れを感じることが出来る※パッシブ)
第2の人生を魔王となってこの世界を我が物と出来無ければせっかく前世の記憶を持って生まれた意味が無い。
(ふう、もう少し)
先ほどのMP切れを考えて魔力玉を手の平で上手にキープする。
たぶん後少しでMP容量が増えるはず、そうすればさっきよりもっと魔法が使える。
今のところミストルに解るのはMPの量と流れだけ、できれば他人の情報全て見られれば良かったのだが、たぶん上位の魔法を使えればそう言う魔法もあるかもしれない。
そう思いながら2年これといって悪いことはせず、良い子の皮をかぶったまま時間は過ぎていった。
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