第14話 新しいメイド

新しいメイド


侍従長はお辞儀をするとマーシャの部屋を後にした。

後には新しく姫付きとなったメイドが3人、3歳の時マーシャのわがままで侍従長が単独で行っていた業務を今度は3人で手分けすることとなった。

但し2か月するとマーシャは王立アカデミーへ入学するのでこの3人体勢は2か月間の限定だ。

そして1人はメイドとはいえまだ8歳の従者、そうアカデミーでマーシャの世話をする同部屋で暮らすことになる一人。

その3人が一人ずつ挨拶をする。


「本日より姫様付きメイドを賜りました、アンナ・スーベリアでございます」

「同じく姫様付きメイドのクレア・シルベスターです」

「あ あの今度アカデミーに赴き姫様のお世話をすることになったフラン・エルウッドと申します、若輩者ですがよろしくお願いいたします」


一人目は前にも見たことがある、確か28歳メイド歴10年ベテランのメイドだった、確か兄王子付きだったはずだが。

現在私以外の王子と姫はアカデミーに通っているため王宮にいるメイドは全て通常の掃除や洗濯が主な仕事で王子が帰って来た時だけ1名のメイドが専属で対応することになっている、学院ではすでに1名専属の側付きがいるため王宮にいるときだけ2名体制という形だ。

但しマーシャの場合は少し違うのかもしれない、なんせあれだけ3歳の頃てこずらせた姫なのだ、一名余分に側付きを増やすのもうなずける。

まあこれは侍従長の意向もあったりするのだろう、ややベテランを一名余分に付けてくるのだから。


「アンナはシャルルからの引継ぎはされておるのだな?」

「はいマーシャ様全て引継ぎは終わっております」

「そうか・王宮にいるのもあと2か月だがその間よろしくな」

「はい」

「ではさっそくじゃついてまいれ」


時刻は朝9時侍従長が抜けた穴を3人が埋め合わせするのだが、この時間からはいつもの騎士団詰所での稽古が日課だ。

マーシャを先頭に3人のメイドが後を続く、それぞれに朝の日課はレクチャーされているようで手にはタオルや水を持っている。

若干最年少のフランだけはもぞもぞしており、自分の場違いな状況におびえているようだが、そんなもの慣れだというしかない。

たぶんマーシャの剣技を見てしまえば、それもぶっ飛ぶだろう。


「マーシャ・オースティン・アルフレアが参ったぞ、本日最初の勝負はだれじゃ」


騎士団長のロドリゲス・バイロンは現在王命により北部山岳砦へ出張中のためここに残っているのは騎士団の80名中40名、20名はお休み20名はすでに警護に出ている。

任されているのは副団長ジュリアン・ジレック、彼は団長ほどではないが剣技はそこそこできる方だ。

但しマーシャの相手を単独でするにはまだ早い、この頃マーシャは同時に2名の相手をしていた。

若い団員が恥と外聞を捨てマーシャに教えを乞うようになったからだ。

前ならば1対1でなければ恥であると思っていた団員たちだが、こうも技術に差がついては面目も何もない。


「本日は私とカールが相手をいたします」

「お ついにお前も参加するのか?」

「…はい」


今日の稽古は副団長ジュリアンと団員のカール・テンバーグ。

相手が二人のため戦闘の形は一人の時より複雑になる、それぞれにパターンを決めて攻めてくるようになったのは先月ぐらいから。

いくら稽古だとは言えまったく勝てないのは剣士としてのプライドが許さない。

マーシャはそこに少し手心を加えてやったのだ。


「いつも同じ攻め方ではどこから攻めてくるかすぐわかる、それに2人で攻めるのじゃからどう攻めるかぐらい作戦でも練ればよかろう」と


1対1での攻め方などたかが知れているが、2人が相手となるとその組み合わせは倍以上。

だが作戦も連携もなければ、1対1より簡単に捌くことができる。

あれから今日で1か月、どうなったかマーシャには楽しみで仕方ない。

バフ掛けもマーシャは最近自分で行うため、前より強力になっており今のところ2人相手でも何の不自由なく楽に勝てている。


「ではやるか」

「はいお願いします!」


詰所前の訓練場いつものように真ん中に3人は陣取る、そして本日の攻めの型は前後同時攻め。

マーシャの前と後ろから攻めようというもの。

ずるいようだが、2人で攻めるのだから当然考えられる位置取り。

だがそれほどこの形は良いわけではない、すぐにマーシャは横に逃げると同時に2人を正面に集めるよう捌いていく。

それからは交互に剣を出してくるが、今のところ難なく捌いている。

そして2人が作戦開始の相槌を始めた、そう一人が前から攻めるのに対してもう一人は真横からに変更する。

真後ろなら逃げるが真横からだとすぐに追いつかれるしかも攻撃を同時にではなく緩急を入れ始めた。

同時に攻撃したりフェイントを使ったり、さらには横からの攻撃を反対側に移動したりと。

どんどん立ち位置を変え攻撃を加え始めた。


「お~これはなかなか」

「はっ!」

(カンカンカカン)

(カン)


そして一人横から強く突っ込んできた、後ろへ引けば前から追撃される。

マーシャはわざと横からの攻撃を受け流し、そのまま前からの攻撃に対して最近覚えた3連撃を使った。


(カカカカカン)


さらに開いた懐へ入り込んでのぶちかまし。

前から攻撃していた副団長はその圧力に耐えかね後ろに吹き飛ぶ。


(ドン)

「ぐはっ!」


さすがにそのまま倒れず片膝をついてとどまるが、そのぶちかましで7メートルは後ろに飛ばされた。

全員魔法による防御はしているためケガなどはないが、今のぶちかましを受けてはすぐに立てず。


「ま まいりました」

「そうか、まあ今日のは良い方じゃな、緩急付けながらの変幻自在な攻撃は実戦でもすぐ使えるからな」

「おほめ頂きありがとうございます」

「よし次の相手は誰じゃ?」


このころには2人相手の稽古も3回以上行っていた。

マーシャはいつの間にか剣術の先生になっているようだった。

この辺りは生前習った剣道の腕前が役に立っている、剣術と剣道はかなり違うのだが足さばきはかなり役に立つ。

今回北の砦への遠征も団長を含む20人の中にはこのような訓練を積み上げた猛者ばかりを選んで連れて行った。

北の砦の先には魔族の国があり、現在魔族の動向をうかがってはいるが商人たちの噂では彼らが武器や食料を備蓄しだしたという話が。

近く戦争でも始まるのではという噂話だが、真意のほどはまだわからない。

騎士団とは別に教会所属の聖騎士団、それに侯爵や伯爵が抱える私設の騎士たちもいる。

ここにいるのは王宮を警護するのが主な役割の騎士団で王宮騎士団ともいう、護衛や警護が主な仕事なので戦争に参加することはめったにないのだが。


先の魔族とのいざこざで北の砦近くを統治している男爵お抱えの警備隊がやられてしまい国境を守る兵が少なくなったためだ。

王宮騎士団は約100名、他の地区で手柄を立てたり定期試合のトーナメントで勝ったものが推薦されてくる。

だがこの国での試合方法は旧態然としたやり方で、名乗りを上げ剣を合わせそれから始めるといった由緒正しいやり方なので、今回マーシャがやっているような訓練は今までしていない。

20名単位で城の警備を24時間行うので常に詰所にいるのは40人、そのうち20人が待機20人が訓練という具合に日替わりで交代する。

現在北の砦へ隊長と一緒に20人が出張中なので残る80人体制で城の警護をしているところだ。


「マーシャ様素晴らしいです」


アンナはこれ見よがしにお世辞を言ってくるが、そういわれても毎度のことなのでどうとも思わなくなったマーシャである。


「あわわ マーシャ様お体は大丈夫なのですか?」

「ああ一応防御魔法はかけてあるからな、そこは心配いらぬぞ」

「マーシャ様お水です」

「ああ ありがとう」

「よし それでは汗を流しに行くぞ」

「マーシャ様ありがとうございました」騎士団員


騎士団の数人がお礼を告げるとお供のメイドを引き連れ湯あみ場へ移動する。

いつものように全員裸になり、予め用意させておいた湯船に入ると石鹸を泡立たせ汗を流してもらう、これもいつもの日課だが、今日はその人数も顔ぶれも違う。

さすがに前の侍従長であったシャルルと比べれば10歳も若いので肌はピチピチ。

前はシャルル自ら浴槽に入り洗ってくれたが3人付けば役割分担があるらしい。

たぶんこの役割分担が普通なのかもしれない。

アンナは外からフランが中に入りクレアは石鹸の泡立てと増し湯と温度調節。

アンナとクレアは交代で温度調節や増し湯をするみたいだ。

フランは私と身長も10センチぐらいしか違わないので湯船に入り泡を手に取るとまんべんなく手に泡を付け私の体を洗い出す。


「湯加減はどうです」

「ちょうどよいぞ」


アンナやクレアは慣れているため手際が良いがフランは数日前に見習い入りしたようで洗う手もぎこちない。


「フランそんなに怖がるな自分の体を洗うようにすればよい、少しぐらい粗相をしてもいちいち怒ったりせんぞ」

「は はい!」


フランはこれから側付きとして10年は一緒にいなければならないのだ、まあ徐々に慣れればよいとは思うのだが。

マーシャの計画ではアカデミーにいる間に冒険者の資格を取り世界中を回って、できるだけ早く捕食スキル持ちを探さなければならない。

たぶんそのためにはお付きの者を最低3人は連れて行かないといけない可能性がある。

一人ではできることが限られるうえに、何かあった時の連絡係も必要。

そのあたりは慎重にかつ大胆に準備しなければ。


「よし流し終わったら着替えて次は魔法の勉強じゃ」


あと2か月で王立アカデミーへと入学する、すでに剣術も魔法も普通の生徒なら到底かなわないレベル。

問題なのはどこまで鍛えれば仕事の役に立つのだろうか?

まあ負けるのが嫌いなので人として最高の強さを身に着けてやろうとは思うが、天使からもらった不死属性がある限り今のままでも最強なのではと思うが。

もし探す対象も最強だったらと思うと安心はできない。

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