プロミスブレイカー ~スキル「フラグ破壊」で異世界エローライフ!?~

イクゾー

第1話 ハーレムなんて地獄じゃないですか

「おめでとうございます! 貴方に異世界召喚のチャンスが与えられました!」


 ベッドで熟睡してたら真っ暗闇で感覚もないのに声だけが聞こえてきた。

 変な夢だなぁ……どうやらナロー小説を読みすぎたみたいだ。

 

「夢じゃないですよ! 本当に異世界へ行けるんです!」


 えっ、マジなのこれ。何かとんでもないことになっちゃってる。

 これって相当に稀有で有難いチャンスですよね─────だが断る!


「いや、そういうの本当にいいんで。勘弁して下さい」


「ですよね。それじゃ早速…って、えええええ!? 断るんですかっ?」


「はい、何か面倒くさそうなんで。ホントすいません」


「まだ若いのに何を枯れ切ったお爺さんみたいなこと言ってるんですかっ。異世界ですよ! スキルを使えば男のロマンが実現するんですよ! 色々あるでしょ、ハーレムとか酒池肉林とか100人切りとか!」


「あなたこそ何を言ってるんですか……女なんて一人を相手にするだけでも大変なのに、ハーレムなんて作ったら地獄じゃないですか。短小とか早漏とか100人に言われたら速攻で鬱になりますよ。下手したら首つりもんですよ」


「そこは私がスキルを与えて何とかしますから! だから行きましょうよロマン溢れる異世界へ! ね、お願いですから!」


「どうしてそこまで必死に僕を勧誘するんですか。ぶっちゃけ怪しいですよあなた。何か裏があるんじゃないですか?」


「うっ…実は今月はノルマが厳しくて……近頃は召喚士がすっかり減っちゃいましたし、召喚に適合する人材も乏しくて………そういう訳ですから今すぐ召喚されて下さい。お願いします。この通りです!」


 うわっ、天使が焼き土下座してる映像が浮かんで肉の焦げる匂いがしてきた。

 止めて下さいよぉ。僕はグロ耐性なんて皆無なんですからぁ。

 こんなのこっちが拷問されてるようなもんじゃないか。おぇー。



「わ、分かりましたよ。異世界に行ってあげるから、ホントもぅ勘弁して」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「だけど、僕はもぅ頑張りたくないんですよ。さっき異世界召喚って言ってたけど、召喚だとお約束のアレでしょ。王様が出て来て勇者になれとか、魔王を倒せとか無茶ぶりされるやつでしょ? そういうのはホント無理ですからね」


「ふふふ、お任せください。そんな貴方にピッタリのスキルがあります!」


「ふーん、本当かなぁ」


「本当ですって。異世界もののお約束というお約束を全てブチ壊せる優れものですよ、このスキル『フラグ破壊』は!」


「それは凄いですね。でもネーミングが地味にダサいかな。まんまじゃないですか。人前で言うのは恥ずかしいですよ」


「そこはもう好きにして下さい。プロミス・ブレイカーとでも何とでも」


「あ、それ良いですね。即採用です」


「気に入って頂けたら幸いです。それでは話がまとまったところで、この召喚契約書にサインをお願いします!」


 暗闇から真っ白い両腕が現れて、書類とペンがぬっと突き出される。

 書類には、異世界からの召喚に応じる対価として以下の4つのスキルが与えられると書かれていた。


 『フラグ破壊 レベル1』

 『回復S レベル1』

 『治癒A レベル1』

 『如意棒 レベル1』


「フラグ破壊と回復、治癒は良いとして、如意棒て……」


「これでもう女性に短小包茎だの早漏種無しだの言われませんよ! ガンガン種付けしてバンバン子供を作っちゃって下さい!」


「勝手に包茎と種無しを加えないでもらえますか。だいたいセックスなんてこりごりですよ。あんなに体力と気力を消耗させられて、得るのは一時の快楽と罵倒だけですもん。コスパ最悪じゃないですか」


「お言葉ですが、貴方は女運がなかっただけですよ。異世界に行けば、もっと包容力のある優しい女性に巡り合えますって!」


 たしかに物欲と承認欲求まみれの現代日本と違って、変にすれてない異世界ならワンチャンあるかもしれない……

 まぁダメもとで乗っかってみてもいいかな。この得体の知れないチャンスに。

 そう決めると、両腕に感覚が戻った。

 ペンを受け取って召喚契約書にサインをすると、今度は全ての感覚が戻り視界に白い部屋が映った。シンプルな応接間だが、どこか奇妙な印象を受ける。

 その最たるものは、空中に浮かんでいる赤いビックリマークだ。


「初めまして、天篠兵露於(あましの へいろお)さん」


 3メートル前に声の主の女性が立っていた。背中には羽根が生えている。


「私は、二級召喚天使のトリカエルです。トリカと呼んで下さいね」


「えっと…夢みたいだけど、現実なんですよねこれ……ともかく宜しくです」

 

「はい、万事まるっと私にお任せください! 何か質問とかはありますか?」


「ありますあります。これって何ですか?」


 僕とトリカさんの中間の頭上1メートルに浮かんでいる、自己主張の激しいビックリマークを指さして訊いた。


「ブレイクチャンスです!」


 ふんすと鼻息荒くして召喚天使は答えると、まだ意味が分かってない僕のために補足をしてくれる。


「召喚契約が成立したので、早速スキル『フラグ破壊』が発動したのですよ。実際に使ってみましょう。キーワードを唱えて下さい」


「プロミスブレイカー」


 これで良いんだよな……?

 あっ、目の前にタッチパネルみたいなのが現れた。


『フラグを壊しますか?  <はい> <いいえ>』


 流れ的にここは、<はい>を押すしかないよな。

 トリカさんを見たら笑顔でうんうんと頷いてる。

 という訳で、<はい>をポチっとな。



 んんん……何も起きないね。

 浮かんでた赤いビックリマークは消えたけど。


「どうなってるの?」


「大丈夫です! 今のでフラグが完全にポッキリと折れました。これでヘイローさんが心配してた異世界召喚時のお約束が消えたはずですよ!」


「へぇ、じゃあ向こうに行っても、いきなり王様が出て来て魔王を倒せとか言われなくて済むんだね」


「それはお約束の大定番ですからね。絶対に無いと保証しますよ!」


「ホント有難い。でも、それだと誰が僕を召喚するんだろう?」


「それは行ってからのお楽しみですね!」


「楽しみというより、不安しかないんだけど」


「きっと、めぞ〇一刻の管理人さんみたいな素敵な女性が迎えてくれますよ!」


「そんな召喚士はいないと思うんだ」


「案ずるより産むが易し! とにかく行ってみましょう!」


 ────ブゥゥゥゥゥンッ

 

 僕とトリカさんの間に今度は真っ黒な丸い穴が出現した。

 何だろこれ‥‥‥ブラックホールかな?


「ヘイローさんの新たな人生に幸あれかしです!」


「えっ、ちょっと待って、まだ聞きたいことがぁぁ────」


 ぁぁぁぁぁというドップラー効果を残して僕の体は黒い穴に吸い込まれる。

 あまりにも非現実的で恐ろしい体験。

 この恐怖の先で、誰が何のために僕を召喚したのかサッパリ分からないまま意識が遠のいていく。でも、ちょっと、本当にちょっとだけ、ワクワクしていた。

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