Melty i

雄蛾灯

第1話

私はサクラ。どこから生まれて、どこで育ったか

覚えていません。趣味嗜好、好きな食べ物などが私

に存在していたのかも記憶が定かではありません。

私がどのような存在なのかは自分でも理解不能です。

そもそもこの場所がよく分からないのです。何か

瓦礫が積まれていて、周囲の匂いも好ましくありま

せん。ただ一つだけ理解可能なことがあります。

それは、私の心は鉄で出来ていることです。


「はじめましてサクラ。今日からここが君のお家だ

よ」

「はい陽介。はじめまして」


何か混濁としていますが、このメモリーはなんで

しょう。何故だか懐かしく感じます。


「サクラ、今度お洋服買いに行こうよ!やっぱり

お洒落ぐらいしなきゃ」

「はい陽介、どこまでもお供致します」


どうして私は動けないのでしょうか。

どうして私は何も掴めないのでしょうか。


「そうだ今度映画観にいこうよ。恋愛映画」

「私にはよく分かりませんが、陽介が行くところな

ら一緒に行きたいです」

「あ、ちょっと待っててね。今薬飲んでから行くから」


どうして私の体は傷だらけなのでしょうか。

どうして私の衣服は泥まみれなのでしょうか。


「心配いらないよ。あいつらは君がいると俺にモノ

を投げつけてくれるけど、俺は大丈夫だよ」

「しかし陽介、額から血が出ています」

「大丈夫だって。それより今度お花見に行こうよ。」


どうして私は…… 。

「ごめんねサクラ。もう体が動かないや」

「嫌です陽介」

「折角、お花見の約束してたのにね」

「そうです!一緒に行こうって約束してたのに

…… 」

「本当は行ってやりたかったけど」

「何を言って…… 」



「ごめんなサクラ」



「陽介…… 」

あの人の名前と共に目から熱いモノが溢れ出てき

た。これはオイルなのだろうか。それとも涙なのだ

ろうか。ただ一つだけ分かることがある。


それは、私の心の鉄は溶けていることです。

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Melty i 雄蛾灯 @yomogi_monster

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