絶望業務連絡

絶坊主

第1話 拳酔

ボクサーを完全に引退して20年。



ずっと引っかかっていた事がある。それは・・・



突発的に訪れる頭痛。



私は激闘型のボクサーだった。しかも、KOで勝った以外、全て判定勝負。



それは即ち、相手の拳のダメージが全て体に残るという事。



打ち合い上等のファイターの宿命。



遅れてやってくる後遺症。



ここ数日。



いつもと違う頭痛が起きている。



時間的間隔、痛みの度合い。



起きている間、寝ている時も痛みで目が覚める。24時間46時中続く頭痛。それはまるでしつこいファイターのように纏わりついてくる。





ブレイクだって言ってんだろ!レフリーが「こいつは永久にブレイク!」って言ってんだろ!離れてくれよ。頼むから離れてくれよ。勘弁してくれよ・・もう悪いことしないからさ、、、





自分の体内に起きている変化。自分の体は自分が一番分かっている。



毎日飲む僅かな酒すら欲しくない。いや、何かしらのトドメを刺してしまう気がして飲みたくない。





愛しい子供たちの成長。





元気で長生き。





早く処置すれば何とかなる。





でも、突きつけられる現実が怖くて先延ばしにしていた。向き合わなければいけない時期に来ている。



「精密検査した方がいいんちゃう?予約しとくわ。」



珍しく妻に症状を訴えた私を心配して妻が言った。





「お前、バカになるぞ!」





トレーナーのSさんに口酸っぱく言われた言葉が頭を過る。今になって思う。





もっと打たせなきゃよかったな・・・





人は後悔する生き物。





子供たちに迷惑をかけてまで長生きしたくない。



こんなこと言ったら戦争で死んでいったウクライナの人たちに悪いよな。





『あなたが虚しく過ごした今日という日は、きのう死んでいったものが、あれほど生きたいと願ったあした』





なんか気持ちが落ちてるって自分でも思う。


明日は予約していたMRIの検査日・・・


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