第2話
そんな事は全く関係ないと否定するものの、パトリックは聞く耳を持たなかった。
そんな彼は時間と共にどんどんと傲慢になっていった。
王族とは思えない言動に頭を抱える日々を送っていた。
パトリックが国王になる未来が見えなかった。
それでも彼の側に居続けているのには理由があった。
何故、パトリックの婚約者で居続けたのか……それは幼い頃に交わした"約束"があったからだ。
『今よりも強くなって、貴女に相応しい男に成長したら、僕と結婚して下さいッ!いつかきっと、僕が君を幸せにするから……!』
もううろ覚えの記憶ではあるが、橙色の髪が海風で揺れて涙で濡れる金色の瞳が此方を真っ直ぐに見つめていた。
その告白は思い返すたびに心が熱くなった。
(わたくしが、この子を支えて守ってあげなきゃ……!)
そんな強い思いだけが記憶に残っていた。
数年後、パトリックに「結婚して欲しい」と言われて天にも昇る気分だった。
子供ながらに淡い恋心を抱いていたからもしれない。
(幼い頃に交わした約束をパトリック殿下も覚えて下さっていたのね……!)
あの時、何気なく交わした小さな約束を守ってくれたパトリックの行動は強く心を揺さぶった。
その言葉を信じていたマデリーンにとって、こんなに簡単に他の女性に目移りしてしまうパトリックを見ていると、針で刺されるようにチクチクと胸が痛んだ。
(……わたくしは、このままパトリック殿下を信じて良いの?)
成長するにつれて、うろ覚えになっていく記憶……もう殆ど覚えてはいないけれど、まるで運命のように"この人しか居ない"と思ったのだ。
自分の直感を信じたいのもあったが、彼が成長してくれるまで支え続けなければと思っていた。
パトリックが目を覚ましてくれると信じて力を尽くし続けた。
それなのに彼は「偉そうに」「煩いんだよ」と吐き捨てるようになった。
自分が頑張れば頑張る程に彼の心は遠のいた。
愛のある言葉など一度も言われたことはなかった。
それからあの時の約束は守られることもなく、此方がいくら努力しても彼の気持ちは傾く事はない。
(まさか、こんな事になるなんて……)
温かい記憶は蝋燭の火のように弱まっていき、ついには消えてしまいそうだった。
自分が相手のために尽くしていれば、幸せになれるはずだった。
しかし、自分の理想とはどんどんと遠ざかっていく関係に溜息しか出てこない。
幼い約束に縛られているのは良くないのではないか。
聞く耳を持たないパトリックが、もうあの時の約束を覚えている様子はない。
このままでいけば、未来はないことは分かっていた。
けれどそれを否定してしまえば、今までパトリックの為に頑張ってきた自分を否定してしまうことになる。
幼い頃の思い出を踏み躙りたくない……だから一歩踏み出せずにいた。
それでも「強くなる」「成長する」と言ったパトリックを信じようと決めたのは、今までの自分の気持ちを無碍にしたくなかったからかもしれない。
いつかはきっと……そんな気持ちで誤魔化し続けていた。
そんな時に現れたのが侯爵家の養女であるローズマリーだった。
同性から見ても、とても愛らしく可愛らしい少女だった。
陽だまりのような眩しい笑顔に桃色の髪と緑色の瞳は本当に花のように美しいと思った。
天真爛漫で無邪気……温かみのある笑顔を振りまく彼女は男性の目を惹きつける。
(わたくしとは正反対ね……)
パトリックはそんな彼女に惜しみなく愛を注ぎ始めた。
ローズマリーは、こんなに時間を掛けても得る事の出来なかったパトリックの心を、いとも簡単に奪い取っていった。
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