魔王登場
また場面が変わった。そこは、城内だった。ただ、人の気配は全くない。
柱は壊れ、屋根も無くなっている。壁も、所々、崩れている。
私は何となく、これが最後の戦いになりそうだなと、肌で感じた。
「こんにちは」
どこからともなく、声が聞こえた。上を見上げたが、違和感がある。天の声ではない。
「どうも、魔王のドラゴンです」
声はする。だが、どこにもいない。
「あのね。正面にいるんですよ。一応」
「え?」
だが、目の前はボロボロの玉座があるだけ。ドラゴンも、誰の姿もない。
「実はね、バグ修正とか言っているらしんですけど、私のキャラクターも、まだ完成してないんです」
「余計な事を、ベラベラ言わないでください」
天の声が怒っている。正面からは、笑い声が聞こえた。
「ごめんね、いやさ、こうやって話すの久しぶりだからさ。もう、嬉しくて。あなたあれでしょ。人間の世界からこちらに来られたんでしょ。大変ですよね。この世界、もう少しで出来上がるんですけど、なんか物語を追加しろだの、キャラクターを増やせだので。まあ、他の作品から、コピペすれば良いだけなんですけどね。そしたら今度は、新しいバグが産まれちゃったでしょ。何やってんだかねえ」
「じゃあ、すみません。竪琴を鳴らしてください」
「私がですか?」
手に持っていた竪琴を、ポロンと鳴らした。目の前で。バシュっと音がした。
「9999」という数字が出た。
「ウギィィィィ!!」
正面から叫び声。私は慌てた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。発声練習みたいなものですよ」
「あの、ここって、異世界ですよね?」
「まあ、そんなものですよ。確か、マナー講師が異世界に飛ばされて、ラスプーチンのようになるっていう話です。面白いんですかね。あなた、生まれは日本でしょ。なんか最近、こういう作品が一部で人気らしいじゃないですか。私もね、一応日本製なんです。縁を感じますね。私ね、ラスボスなんですよ。でも、裏ボスがいるらしくって。作者が、そいつを気に入ったみたいで。先に作り始めたらしいんです。私なんか忘れられちゃって。ハハハ」
「すみません。今度は竪琴を鳴らしながら、歌っていただけませんか」
天の声のリクエストに、私は動揺した。音痴だ。私が歌うと、周りはクスクス笑う。
良い思い出なんてない。それにカラオケなんて、ここ二十年、行っていない。
「いよ、待ってました!」
ラスボスが囃し立てる。新人の歓迎会を思い出す。竪琴を持つ右手が震える。
「あの、鼻歌でかまいません」
「リラックス、リラックス」
「……わかりました」
私は意を決した。竪琴を適当に掻きながら、二十年前に流行歌を、ささやくように歌った。
バチコーーーン!! バチコーーーン!!
突然、大きな雷音が二度、鳴った。そして、ゴゴゴゴゴゴと、崩れていく効果音。
はっきりわかる。私はラスボスを倒した。
「あれ、もうバグ修正しちゃったの? 大体どこだったよのバグは? 風ではためく旗がおかしかった、とかでしょ。いいよ、そんなのいちいちさ。見てないよ。大体見てさ、クレーム入れてくる奴なんて、暇人だよ。そう思いません」
倒されたのに、ラスボスは相変わらずベラベラ喋る。
「……はい」
「これで以上です。ありがとうございました」
「そうなの? 早いね。じゃあ、またどこかで。って言っても、今度会う時は、敵同士になっちゃうんですけどね。ハハハ」
そうして私は、意識を失った。
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