プロレス

「いやです。もう、帰りたいです」


「早くしろよ!」


 猫耳が苛立っている。私だって、苛立っている。


「やらないと、現実に帰れませんよ。いいんですか? ずっとここに、いる事になりますよ」


 それを言われてしまうと、どうにもならない。


「じゃあ、歩いて行きます。彼女とは嫌です」


「そういう設定なので。お願いしますよ。」


「大体あなたは誰なんですか。姿も見せないし。ここに来て一緒に乗りましょう」


 その時だった。近くから走る音が聞こえた。ふと、そちらの方を見る。あの猫耳姿の女性だった。


「言うことを聞け!!」


 彼女は飛んだ。体を縮こませ、両足を揃え、私の顔にドロップキックをかました。


「ふぎゃ!」


 痛い。私は吹っ飛び、地面を転がる。木にぶつかる。


「なんで……」


 私はフラフラの状態で立ち上げる。また走る音。


 彼女は飛んだ。彼女の両太ももが、私の顔に巻き付く。そのまま、フランケンシュタイナー。

 

 私は投げ飛ばされた。そして、気絶をした。



 ……気がつくと、馬車の中だった。彼女は奥の方で、貧乏揺すりをしながら座っている。窓の外を見ていた。


 もう、こいつが魔王を倒せば良いじゃないか。長い沈黙が続く。彼女の口が開いた。


「ねえ、なんでさ、こんなロリ巨乳の猫耳で、甘えるキャラがいいの?」


「知るかよ」


「……キモ」


 それは誰に言ったのだろうか。私に言ったのだろうか。それとも、現実の人間達に言っているのだろうか。


 それ以上は聞かなかった。


 宿についた。私は下りた。すぐに彼女も下りた。とっと宿に入っていく。


「続いてください」


仕方なく言われた通りにした。宿には、誰もいない。


 近くの部屋に入る。


「まさか、こいつとやるの?」


「いやー、ちょっと待ってください」


 しばしの無言。


「しなくていいです……これで終わりです。お疲れさまでした」


 明らかに、空気を読んだ発言だった。


「やったー!!」


 それを最後に、猫耳姿の女性は、ゆっくりと消えていった。


 私は心底、ホッとした。

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