綺麗だったあの子

野坏三夜

あの子と私

 ある日、私は父からワンピースをもらった。それは綺麗な青の、触り心地の良い、生地がしっかりしている、かわいいワンピースだった。一目見て気に入って、私は次の日学校に着ていった。

 そこに、同じワンピースを着て来た女の子がいた。廊下ですれ違った時にちらと見えたのだ。真っ青な、同じワンピース。でも、私が見た時と印象が違かった。なぜなら来ていた子が、私よりも身長が高くて、すらっとしていて、色白だったから。ワンピースも心無しか、私のよりも輝いているように見えた。それを見て、私はあの子の方が似合ってる、そう思って気に入ったはずのワンピースを着るのをやめた。




 運動会の日だったと思う。日差しが強く、ほとんどの児童が赤白帽子を被って元気に動き回っていた。私もその中の一人で走り回っていた。

 テントへ水筒を飲もうと日陰に行くと、そこにはあの青のワンピースを来ていた、綺麗な子がいた。私よりも身長が高くて、色白なあの子。その子は日傘をさしていて、酷く顔色が良くなかった気がした。

 思わず「大丈夫? 」と声をかけた。


「大丈夫だよ」


 同い年というのに、とても大人びて見えるその子。


「運動会、たのし? 」


 もちろん楽しい。「うん! 」と元気に頷いた。


「そっか。良かったね」


 一呼吸おいて、その子は続けた。


「……私も、やりたかったな」


 悔しそうな、悲しそうな、そんな顔をした。綺麗な顔がくしゃっと歪んで、私はこの時、この子も人間なんだなと直感的に思った。


「紗弥! もう行くわよ! 」


 母親らしき人がきて、その子は連れられていった。残念そうな顔をして、日陰から去っていった。


「ばいばい」

「またね」


 もう少し話したいと思ったから、またねって言った。




 学校で、最近あの子を見ないなと思ったら、どうやらその子は亡くなったらしい。その話を聞いた時に、酷く衝撃を受けて、その日の夜は寝付けなかった。布団の中でもぞもぞ動いて、目を瞑っても、浮かんでくるのは、青いワンピースを来たあの子、悔しそうな顔をするあの子だった。

 私はあの子を羨ましいと思った。だってワンピースを着こなせていたから。でも、あの子は運動会に出たがっていた。

 なんとも言えない感情になって、私はいよいよ寝た、みたい。

 最後に思ったのは、あの子はあの子の人生を楽しめたのかどうか、ということだった。私には分からない。亡くなってしまっているし、どうしようも無い。けれど、なんとなく、思ってしまったのだ。後はもう少し話したかったな、そう思った。

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