天使に恋した月曜日

齊藤 涼(saito ryo)

第1話

 天使が願いを叶えてくれる。

学内のいたる所でまことしやかにささやかれる流言の数々。校庭の隅に鎮座する朽ちた小さな祠に、べっこう飴を供えて願うと望みが叶うという。べっこう飴は天使の好物なのだそうだ。ずいぶんと庶民的な味覚を持っているな。

「祠の天使の噂、アキラは信じてる?」

「そんなこと現実にあるわけないじゃん」

「だって、キヨトは勉強あんなに苦手なのに、この間のテスト全部満点だったし」

「まぐれでしょ。当てずっぽうで書いたのが奇跡的に正解しただけ」

「サエコは片想いしてた先輩に告白されたって」

「元から両思いだったってことじゃない」

呆れ顔のアキラ。私の心も知らないで。

「なんでそんなに否定するのよ」

「マリエこそ、どうしてそんなに盲目的に信じてるわけ」

「叶えて欲しいことがあるの。嘘だと思っててもいいから一緒に行こうよ」

ぶつかってきそうな勢いで両手を顔の前に合わせる。

「嫌だ」すり寄るマリエを振りほどきながらキッパリ却下。

このままそっぽを向いていればよかったのに。瞳を潤ませ、泣きそうな表情を見せるマリエと目が合ってしまった。つぶらな瞳に見つめられると弱い。ため息を吐きながら答える。

「しょうがないな。今回だけだよ」

一緒に行けると嬉しそうにガッツポーズなんてして、そんなに喜ばなくても良いのに。

チャイムが鳴り午後の授業が始まる。身が入らなくて窓外の小鳥を目で追った。体育の風景をぼんやりと眺めながら先ほどのやりとりを思い出す。マリエの叶えて欲しい願い事ってなんだろう。もしかして好きな人でもいるのかな。天使に頼みたいと考えるほど、どこの誰がマリエの心を占領しているのだろう。気になってしまい、先生の声は一切頭に入ってこなかった。

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