25話 総力戦
全部で二十台の鋼鉄車(ドルネイル)がレイシレイラ城の瓦礫後に並んでいた。各鋼鉄車(ドルネイル)が何度も砲撃を繰り返す。砲撃音は全く鳴り止まない。
さすがに鋼鉄車(ドルネイル)の砲撃は苦しいのか、巨人(シユルーク)達の足が後退していった。不意をつかれたのもあるだろうが、鋼鉄車(ドルネイル)の砲撃は巨人(シユルーク)達にダメージを与えている。
「やめろ! そんな玩具で神魔一体(バーゼーガー)に勝てるかッ!」
レイダークの忠告を聞く秩序警(イールミリ)はいない。
後退しているのを好奇と見たのだろう。鋼鉄車(ドルネイル)の攻撃がさらに激しくなった。巨人(シユルーク)達をどんどん後退させ続け、この勢いのまま殲滅すべく砲撃し続けた。
「うっ――――――――ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいなぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
巨人(シユルーク)の一人が雄叫びを上げると、その場で両腕を振り上げそのまま振り下ろした。
すると鋼鉄車(ドルネイル)目がけて暴風が吹き荒んだ。
思いもよらない事態だったのだろう。砲撃を続けていた鋼鉄車(ドルネイル)は、突如発生した暴風にどうしようもなかった。為す術なくモロにくらってしまう。
全二十台の鋼鉄車(ドルネイル)が空を舞い、遙か遠くまで吹き飛ばされた。落下した各所で爆発音が聞こえ、黒煙が立ち上る。
信じられない光景だった。秩序警(イールミリ)は巨人(シユルーク)のたった一行動で敗北してしまった。
「ばんざーいぃぃ! 邪魔者はこうしてきえましたぁぁぁぁ!」
さっきまでズラリと並んだ鋼鉄車(ドルネイル)が巨人(シユルーク)を追い詰めていたのに、それは夢だと言わんばかりの結果だ。一瞬で逆転されてしまい、再び絶望がこの場を支配する。
「はぁぁ。コソドロくぅんんん? ほぉぉんのちょっぴりぃぃ。生き延びられてよかったねぇぇぇ」
「でもぉ。もう幸運は起こらないよぉぉぉ。今からコソドロ君は死んじゃうのぉぉぉぉぉ」
「やったぁ! やったぁ! プチッと殺そぉ! プチッと殺そぉ!」
鋼鉄車(ドルネイル)を片付けた巨人(シユルーク)達がやってくる。さっきと違ってレイダークは動けるようになっているが、戦況が有利になったワケではない。右腕は折れているし、レイダークが絶体絶命である事に変わりはなかった。
「フハハハハ! お前、オレを殺すために近づいてくるのか? わざわざ歩いて?」
余裕綽々で歩いてくる巨人(シユルーク)達がおかしくてたまらないと、レイダークは笑った。
「お前は神魔一体(バーゼーガー)したんだぞ? なら、動かずともオレを殺してみたらどうだ? オレの前まで来なければ殺せない。それは不完全な神魔一体(バーゼーガー)をしたと言ってるようなモノだぞ? 完璧な想像ができているなら、どんなに距離が離れていてもその場から動かずオレを殺せるはずだ」
巨人(シユルーク)達の動きがピタリと止まる。
「離れた相手を殺せない。鋼鉄車(一般人の発明)でもできる事なのにな。頭悪いんじゃないか?」
レイダークはわざとらしく指で顎を摩る。
「なるほど、神魔宝貴(ファウリス)が叶えるワケだ。自覚あるんだろ? いくら勉強しようと、物事を覚えようと、人から学ぼうとしても、全く身にならない。何かを発明しようとしても失敗してばかりだから呪いに喜んだ」
レイダークは巨人(シユルーク)を指さし、はっきりと言った。
「可哀想に。お前バカなんだな」
その時、四体いる巨人(シユルーク)の一体がキレた。
「ぼ、ボクはバカじゃなああああああああああぃぃぃぃぃ!」
身体を震わせながらレイダークを睨み付ける。
「バカなのはパパとママだッ! 兄さんだッ! 家族だッ! ボクは天才なのにいつもバカにしてきたアイツらがバカなんだッ! バカだからボクが天才だとわからなかったんだッ! 妄想しかできないって言ってくるアイツらがバカだッ! ボクのは妄想じゃない! ボクは天才だから何でも発明できるッ! ボクは何だって作れるんだッ! バカはボクを何もわかっていないッ! バカだからボクを理解できないッ!」
キレた巨人(シユルーク)がレイダーク目がけてもの凄い速さで迫ってきた。
「ボクは神魔宝貴(ファウリス)だって作れるんだぁぁぁぁ! ボクは凄いんだぁぁぁ! バカなわけがあるかぁぁぁぁ!」
「何度も言わせるな。お前が作ったのはクソな劣化品(ダミー)だッ!」
レイダークは懐から鉄板を継ぎ接ぎしたような球体を取り出した。
「バカじゃないぃバカじゃないぃバカじゃないぃボクはバカじゃないぃぃぃぃ!」
巨人(シユルーク)の手がレイダークに伸びる。握りつぶす気だ。レイダークの侮辱で巨人(シユルーク)は頭に血が上っている。握った瞬間、すぐにレイダークをグチャグチャにするだろう。
「…………ふん」
それはレイダークもわかっているはずだ。だが、深呼吸するだけでその場から動かない。
巨人(シユルーク)の手が目の前に。
レイダークは球体を翳そうと――――その時。
「レイダークさん!」
ドォンと音が聞こえた。キレた巨人(シユルーク)の頭部に砲撃が命中し、同時にレイダークの身体が鞭に縛られる。
「死ぬなど許すか! お前は私に逮捕されるべきなんだ!」
レイダークの身体が釣られた魚のように引っ張り上げられ、離れた場所に飛ばされた。その際、レイダークは持っていた球体を落としてしまう。
「なっ!?」
空中で鞭が解かれ、レイダークは両足で地面に着地する。
「レプリルとゲヴェイア!? 何故お前達がこんな所に!?」
「決まってます! 死ぬ気なレイダークさんを止める為ですッ!」
「私は秩序警(イールミリ)の警正総統だ! 部下を率いる責任がある! 後ろでふんぞり返ってるだけのクソ司令官と一緒にするんじゃないッ!」
たった一台の鋼鉄車(ドルネイル)が巨人(シユルーク)と相対する。巨人(シユルーク)は邪魔された事に苛立っているようで、攻撃対象を鋼鉄車(ドルネイル)に定めていた。
「その玩具で神魔一体(バーゼーガー)した巨人(シユルーク)を相手にできるワケがないだろう! 逃げろッ!」
「逃げる? 誰に何を言っているクソ怪盗!」
舐めるなと、ゲヴェイアは宣言した。
「この鋼鉄車(ドルネイル)に乗っているのは私とルフロウなんだぞッ!」
レイダークから注意を逸らそうとしているのだろう。鋼鉄車(ドルネイル)は巨人(シユルーク)の周囲を旋回し攻撃を続けていた。さっきまでいた二十台の鋼鉄車(ドルネイル)と違って圧倒的な練度だ。曲芸と見まがうような動きで、踏み潰そうとする巨人(シユルーク)の攻撃を回避していた。
「ゲヴェイア様! このまま巨人(シユルーク)の相手を続けてよろしいのですね!」
「構わん! 以前からシュルークにはムカついていた! この場で処刑するぞルフロウ! 罪状は国家転覆罪だッ!」
「このゲヴェイアぁぁぁぁぁ! かわいくないぃぃぃぃぃ!」
巨人(シユルーク)の攻撃が一発でも命中すれば鋼鉄車(ドルネイル)は大破確定だが、ルフロウの操縦技術とゲヴァイアの的確な指示は郡を抜いていた。巨人(シユルーク)を翻弄している。
「三時方向に回避! 二秒後、多連砲撃開始!」
「了解ッ!」
加えてこの鋼鉄車(一般人の発明)は特別製らしく、他の鋼鉄車(ドルネイル)とは明らかに違う性能(チユーンナツプ)をしている。砲撃が一発づつのみでなく連射が可能で、砲塔の旋回速度や速度も桁違いだ。小回りも効き、ジャンプまでしている。
目を疑うよな動きと攻撃を続ける鋼鉄車(ドルネイル)に、さすがの巨人(シユルーク)も苦戦していた。まだ致命打こそないものの、巨人(シユルーク)もたった一撃を鋼鉄車(ドルネイル)に命中させられない。
巨人(シユルーク)にほんの僅かずつ蓄積するダメージを与えながら、鋼鉄車(ドルネイル)は致命打を避け続ける。
「巨人(シユルーク)は私とルフロウが倒す! お前はあの死にたがりにビンタでもしてこい!」
「当然です!」
ゲヴェイアはレプリルを鞭で縛り付けると、さっきのレイダークと同じように投げ飛ばした。
当然、投げた方向はレイダークのいる場所だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます