令嬢は静かに眠りたい

みさき

第1話

 眠るのが怖い。


 そう、感じ始めたのはあの子が来てからだった。


 眠ると必ず、悪夢を見る。最初は、月に2、3回程だったのが今では毎日と言っていいほどだ。


 その夢で、私は断罪されるべき悪として登場する。


 そして、罰を受ける。


 その罰も様々で、国外追放される時もあれば、処刑される時もある。


 変わらないことがあるとすれば、私は罪人で必ず死ぬということ。


 首を切られ、獣に食い尽くされ、剣で刺され。


 何百回と夢の中で死んだ。その夢はリアルすぎた。


 首を切られれば血が吹き出す。獣に食われれば体が引きちぎられるような痛みが襲う。


 次第に私は、眠らなくなった。


 いや、眠れなくなったが正しい。



 そして、現在あの子が義母妹が来てから5年。


 私は、17になった。


 今、私は自分の婚約者と妹の逢瀬を見ている。


 今日は、私の誕生日だか婚約者は用事で来れないと手紙とプレンゼントを送ってきた。


 まさか、用事が妹との逢瀬だなんて思いもよらなかったけど。


 しかも、家の庭で堂々と。


 庭の奥まった所とはいえ、私の部屋からは丸見えだ。


 おもわず、ため息をつきそうになり苦笑する。


 こんな、不健康な女よりも何倍も可愛い妹をとるのは当たり前だろう。


 銀髪に青みがかった銀の瞳。よく、冷たいと言われる顔は寝不足により隈ができ、顔色も悪い。


 妹は、ピンク色の髪に同じ色の瞳。健康的で溌剌とした彼女と私は正反対。



 私は、ルーナ・マリエッタ。


 ヌターナ国の伯爵家の令嬢だ。


 母は、5年前私が12の時に病で亡くなった。


 その後、父が連れてきたのが現在の伯爵夫人と異母妹のマリア。


 父と母は政略結婚だったけれど、母は父を愛していたらしい。だが父は違った。


 母とは別の恋人を外で作っていた。


 その事実を知り、母は寝込みそのまま亡くなった。


 父は、母の喪が開けた次の日恋人とその娘、同い年の異母妹を連れ、私に言った。



「これからは、家族4人で仲良く暮らそう」



 と。正直、耳を疑った。馬鹿じゃないかと叫びそうになった。


 ゛仲良く゛なんて今更出来ると思ってるの?と言いそうになった。散々、私とお母様を無視しといて、何を言ってるの。



 でも、゛仲良く゛なんて口先だけだったのだと気づくのはすぐだった。


 まず、私と彼らと食事は別。


 一緒だったとしても話しかけられはしないし、自分から話題を振ったりもしない。


 次に、義母妹と私の扱いが違う。


 彼女は週に一度ドレスを仕立てアクセサリーを買っているが、私は無い。


 もとより、そんなのは欲しいとは思わなかったしあの父のことだから期待はしていなかった。ただ、少し悲しかった。



 極めつけは、私の物が妹の物に変わっていくことだった。


 使用人によると、義母妹が私の物を欲しがったらしい。さすがにそれは父も反対したらしいがやはり父は父だった。


 最初に無くなったのはアクセサリー類。次に、ドレス。そして、私の部屋。


 今まで使っていた部屋から、離れに移された。


 離れは、先々代とかその辺の当主が愛人を住まわせるために建てたらしく、厨房などの水回りが全て整っている。


 父は、部屋を義母妹にあげた代わり離れに住まわせたようだか、これはただの厄介払いだろう。


 私の侍女のリーナは、このことにとても怒っていたし古参の使用人達も皆私を心配してくれた。



 目の前では、まだ婚約者と妹が愛を囁き合っている。


 この様子をみるに、婚約破棄は時間の問題だろう。


 私が悪夢を見始め塞ぎ込むのを婚約者は励ましてくれた。


「いつでも、傍にいるよ」なんて言っていたが所詮こんなものなのだろう。


 最近では、手紙を送っても返事が帰ってくるのも稀だし、会ってもいない。


 本当に、あの子は私のモノをとるのが上手ね......。



「お嬢様、そろそろ......」


「そうね、リーナ」



 リーナの声に振り返り窓から離れる。



 その日の夜、私は本館に呼ばれた。

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