第10話 瑛輝 式神になる

私は白蛇の瑛輝えいき。人で言うならば1000歳になろうか。我らにすればまだ若いぞ。


とある所におったのだが、みつばさん、瑞原さんたちを守るよう言いつけられて派遣されてこちらに参った。

しかし、また急に戻れと命じられて一旦は戻ったのであるが、その人はあまりにも色々な存在を自由に出入りさせて、穢れておった。穢れたところにはおられぬ。縁のできたみつばさんの所へまた舞い戻ったという次第。

しかしながら、すぐにみつばさんの式神になるというのも躊躇われたので、力量を見させてもらったうえで決めたいと申し出た。

みつばさんの所には、先にしいちゃんがおり、また子分の小さな白蛇たちがわらわらとおって、みつばさんのエステの手伝いをしておる。私は詰まりのある一点を砕くことができるので、その後をしいちゃんたちが流すという連携で仕事をするようになった。

まだ、仕事もさほどに忙しくないこともあり、私は自由に出かけ、もっとぬしに適任の人はいないかと探しに行ったりもしておった。同時にみつばさんの腕があがるよう、仕事をとってきたりもしたのだぞ。みつばさんの技も磨きがかかり、まあ、ここより居心地の良い所もなさそうだと、式神になるのを承諾したのが、先月のことだ。

名前をあれこれ考えてくれておったが、なんと、日本にやってくる前の中国の主さんが付けてくれた名と同じものがあったのには驚いた。縁を感じたな。

久しぶりに昔の主さんのことを思い出したゆえ、少し話そうか。


そのお方は、後宮に住まう妃で、占いが得意で色々な人に頼まれてはよく占ってやっておった。

私が見えていたので、私にぴったりだと「瑛輝えいき」という名を付けてくれた。優しい声で「瑛輝」と呼んでくれたものだ。

王様のご寵愛を一身にうけてお幸せそうであったが、よくあるように他の妃達の妬み、恨みは大変なものであった。ついに恐ろしいことが起きた。剣で刺されて殺されてしまったのだ。その時、脇腹からは血がどくどくと流れ、血の海の中でそのお方が冷たくなっていくのを、そばにおりながら私はどうすることもできなんだ。ただ見ているしかなかった。

そのお方を失って、私は荒れた。荒れて荒れて、色々なものに突っかかってはケンカばかりしておった。

そんな時、倭国の話を聞いたのだ。行ってみたいと思った。そして、私はそれ以来ずっと日本にいる。


この地でまた「瑛輝」と呼ばれる日がこようとは思ってもみなんだ。

この名は、白く、水晶のように輝く玉、美しい玉という意味がある。良い名であろう。

なんと、あの方とは違い私が見えてはいないのに感じ取って、みつばさんはこの名を付けてくれた。私は思いがけず良い主さんに巡り合ったのかもしれぬ。


酒は好きだが勝手に飲むから供えなくとも良い、食べることには興味がないからあれこれ用意せずとも良いと言ったら、しいちゃんと勝手が違うとみつばさん(これよりは主さんと呼ぶ)はとまどっておったな。

今は、人型をとり、しいちゃんと同じくらいの男の子の姿にしておる。見た目が子供なので、酒を飲むというのもどうかと気になる。そこで主さんは一計を案じてジュースから作る果実酒を用意してくれておる。まあ、これならば見た目はジュースであるしな。ありがたくいただくことにした。私はお茶も好きだ。お茶も時々頼む。美味しいものをな。


しかしまあ、しいちゃんは姦しい。いたずらばかり考えおる。見かねて止めているのだが、先日も寝ている主さんの顔にいたずらしようとしておったのを止めたところだ。私は見張りのように主さんの足元に座っておる。しいちゃんは主さんの横に添い寝しておるが、時々腕やら足やらで潰されそうだと騒いでおるわ。だからといって、いたずらはならぬ。


これからは、主さんのたくさんいる式神の中で一番の年長の私がしっかりと束ねて参りまする。

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