第76.5話
「……つまり、あんたは何ひとつ、あの魔法師に必要なことを話していなかった、って訳ね?」
「まぁ……そう……かな」
「しかもあいつが『故意に撒いた』んじゃなく、先回りしようとして『予想が外れて見失った』ってだけね?」
「それは、俺はちゃんと『見失った』って言ったぜ」
「……」
「……申し上げました。小隊長殿」
「そういうことじゃないでしょうっ! なんであんたに、護衛の命令をしたと思ってるのよ! 『皇国の魔法師』に、常に衛兵が側にいるってことを本人に伝えてなきゃ、意味がないでしょうが!」
「……申し訳、ありません……」
「謝る相手が違うでしょ? あんたって、昔っから必要なことを言わないのよね! 衛兵団に入ろうとしていた時だって何にも言わなかったし、あたしの前の恋人にだって……」
「小隊長、その話は今は……」
「え、あ、そうね。うん。冒険者組合で確認したら、中級だけじゃなく上級も二基、踏破してるらしいわね。流石、冒険者としても一流だわ……本当にあんたの『護衛』なんか全く必要ないみたいね」
「あはははは……」
「笑い事じゃないわ! あんたがちゃんと報告あげてこないから、あいつ……いえ、あの方に、とんでもないことをしちゃったじゃないのよ!」
「俺が言う前に、勝手に結論づけて飛び出していったのはアステルだろう?」
「そ、そりゃ、あたしも、ちょっとは……でもっ!」
「小隊長、まずは魔法師殿に、如何にお怒りを収めていただくかということの方が先決かと……」
「あ……そうだったわ。衛兵団としてあんなことまでしちゃったから、今更なかったことになんかできないし。あの時、剣を抜いていなかったことだけが救いね。だけど、こんな不祥事、絶対に皇国に知られる訳にいかないわ」
「あいつ皇国国籍じゃないし、そんなに影響力ないと……」
「馬鹿っ! イスグロリエスト国籍じゃないのにあの国の魔法師ってことは、皇国があの方の力をもの凄く高く評価してるって証なのよ? そんな人に『ヘストレスティアの衛兵団にとんでもない扱いをされた』なんて言われでもしたら、あの国はすぐにでもこの国との国交を見直すとか、言い出すかもしれないでしょ!」
「で、でも、そこまで簡単には……」
「皇国は、この国なんてどうでもいいのよ。切り離してしまった方が、むしろ皇国としては利が多いくらいだわ。この国に入る皇国の人は、基本的に『面倒事の火種』になりやすいのよ。だから、変な奴等に絡まれないように、なんかあっても側にいて対処できるようにってあんたに命令したのよ! なんで部下のひとりも動かしていなかったのっ!」
「……」
「ひとりで側をうろちょろしていただけで、部下に交代での付き添いもさせていなくて完全に見失って? こっちがきちんと対応していたってことが示せていれば、何かあったとしても言い訳くらいはできただろうけど、あんた自身が『面倒事』になって、どーすんのよっ!」
「……」
「とにかくっ、全員で、全力でお詫びに行くわよ! あんたもよ、ディルク!」
「はいっ!」
「……もし許してもらえなかったら、覚悟しておきなさい。かばえないからね?」
「は、い……」
***
「ねぇ……いつまで……いつまでこんな汚い臭い場所で働けばいいのよ?」
「うるさい、何度同じことを聞くんだ!」
「だって!」
がっ!
「いっ、痛いっ! きゃあっ! 嫌ぁっ、汚いっ!」
「うるせぇって言ってるだろうがっ! 喋るなっ!」
「うっうっ……」
「おまえができもしねぇのに【火炎魔法】で焼けばすぐだとか言って半端に温めちまったから、こんなに臭いや汚泥が広がったんじゃねぇか!」
「だ、だって……できると思ったんだもん……」
「いい加減自覚しろよ! おめぇは魔法が下手で、魔力も子供以下で、なんにもできねぇんだって! 図々しく魔法なんか使おうとするなっ!」
「酷い……酷いよぅ……ひっく、ひっく」
「……あと四日だ……ちゃんと終わらせれば、冒険者資格だけは剥奪されない……」
「ひっく、ひっく」
「泣くな!」
「もうやだよぅ! 冒険者なんて……どうでもいいから……ここから出してぇ……」
(ああ……! 本当に間違えた! もっと早く、ふたり共殺しておけばよかった……!)
(くっそ、こいつ等なんか、さっさと賤棄にしちまえばよかったんだ! そしたら殺しても罪にならなかったのに! ここから出たら真っ先に……真っ先に賤棄にしてぶっ殺す!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます