第76話 『ダフト上級七番・黒迷宮』6
残り三階層でたっぷりと掘り出せた魔具も、一度はあの手提げ袋に入れたのでどれもこれも新品同然だ。
あの店を教えてくれたセイリーレ冒険者組合の奴にも、礼を言いに行かないとなぁ……
あの町で買った物や作ってもらったもの、そして教えてもらった方陣の仕組み……そのことがなかったら、絶対に俺は今ここには居られなかっただろう。
そして、イグロストで出会った他の人達にも、ちゃんと感謝を伝えに行かねぇと。
ははは、変だな。
この国の奴等とは、関わりたくないなんて思ってるくせに。
何が違うんだろう。
冒険者嫌いで冒険者に厳しいと言われた国の人達と、冒険者の国と言われているここの国の人達と。
ああ。
そうか。
イグロストでは『冒険者』であることも『方陣魔法師』であることも、全く否定されなかったんだ。
そして一度も、誰からも『命令』されなかった。
国境であるセイリーレ南西門の門番も衛兵も、俺に対して決して高圧的な言葉を使わなかった。
冒険者に侮られないように、とか、いい気にさせないように、なんてことも一切なかった。
初めて『認められた』気がしたのは……そっか……ミトカと話した時だ。
あいつは、ガエスタの冒険者を嫌っていたと思う。
憎んでいる奴もいた。
だけど、同じ『冒険者』であって、憎んでいる奴の知り合いであるにも関わらず、俺に対してそういう態度を取らなかった。
俺を、『俺』として認めて話をしてくれた。
ミトカは嫌っていたけど、あいつの育った町もそういう町だった。
『冒険者』というだけで判断するのではなく、ちゃんと……
ガエスタでは、冒険者は犯罪者と同義語だった。
ストレステでも、衛兵団は冒険者を胡散臭く思っているのだろう。
常に警戒し、その言葉を聞くより先に従えと命令する。
まあ……この国で用意されている『迷宮』で遊ばせてやっているんだから、敬意を払えと思われているのかも知れないけどな。
ここでの冒険者というものは『刺激を楽しむ気楽で無責任な遊び人』……程度なのかもしれない。
本当の『冒険』って、なんだろう。
何だかしんみりしてしまって、もうさっさと踏破証明もらって宿屋でゆっくりしたくなった。
まだ五日目だったが、探索する階層は全部見終わったので前室へと方陣札で戻ってきた。
上まで上がってくると、奥の方から低い地鳴りのような音が壁を伝わってくる。
やっぱり、この迷宮の核はあの石板だったわけだ。
てことは……残念ながら『名付き』には、ならなかったなぁ。
外に出ると門番達が諦めが早すぎる、とか、もう少し粘れよ、とか言ってくる。
……いいじゃねぇか、いつ戻ったって。
「探索は根気だぞ? いくらなかなか出ないからって、諦めちまうのは勿体ないだろう?」
「欲しいものは手に入ったから、出て来たんだ」
「え? 狙っていたものがあったのか?」
「ああ。記章が取れりゃ、あとはどうでもいいからな」
うん、その顔はもう見飽きた。
鼻の穴でも大きくしてくれた方が、驚くし面白いと思う。
記章を見せ、未だ呆然とした風情の門番ふたりから証明札を受け取った辺りで、迷宮の唸りが表まで響きだした。
「えっ?」
「なんだ? どーいうことだ?」
「『迷宮核』を取り出したら、迷宮が閉じるのは『普通』だろ?」
「いや、だって、今までは……」
「今までの奴等が『本当の迷宮核』を見つけられていなかっただけだよ」
ほぅ……育成が終わった迷宮って、閉じるとこんなに表側にこんもりと盛り上がりができるのか。
前回はすぐに町に戻っちまって、見なかったからな。
もし取り残しの魔具があったら、またここら辺に迷宮ができるんだろうな。
そうだ、門番にもうひとつ聞いておこう。
「『上級三番・黒迷宮』ってあるか?」
「……そりゃ、随分昔の話だな」
やっぱりあったのか。
「この近くだったのか?」
「いや、もう少し東の方だったな。あんまり深くはなかったが、横に長い迷宮で育成中に入った奴等が変な魔法を使ったらしくてな。二十階層くらいで崩落事故になったんだ」
「そんで、魔虫と魔獣が溢れちまって、無理矢理埋めたんだよ。確か、三十年くらい前だな」
未踏破の育成中迷宮で使われた魔法……
「どんな魔法だったんだ?」
「使った奴等も死んじまったからな……詳しくはわからねぇが、当時の門番は卵の腐ったような、嫌な臭いが吹き出して来たって言ってたらしい」
「そうか。俺は、そんな魔法は持っていないから大丈夫だな」
「できあがってる迷宮なら、ひとりふたりの魔法程度じゃ崩れたりしねぇって」
「それなら安心だな。ありがとう、教えてくれて」
俺が礼を言うと、門番達はきょとんとした顔をしやがる。
そっか、ここの冒険者は『礼』なんか言わないか。
エデルスの
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