第73話 『ダフト上級七番・黒迷宮』3
このまま諦めるには、悔しすぎる。
あの水をどうにかできないか……?
この部屋だけが、少しだが高い位置にある。
あの水没した下への道を、低くなっている方の四十階層と繋げられないか?
そうすれば少しは水が抜ける……が、その下がどれくらいかまでは判らないか。
四十階層で地面を見ながら、考える。
……この四十階層の地面、厚みはどれくらいなんだろう?
泳いでいる影が見えたってことは、四十一階層目はそんなに深くまでは潜らないはず。
この床……抜けないか?
全部じゃなくてもいい。
一部分、でもなるべく大きく。
今の入口の大きさだと、雷光剣で雷を入れたとしてもどこまで伝ったのか、全部の魔獣に入ったのか確証が持てない。
毒水が普通の水と同じように、雷光を伝えられるかどうかも知らない。
そして高さが違うから、魔力の鑑定が隅々までできているか解らない。
今も、この入口付近しか、魔力が揺らめいているのが判らないからな。
それでも、結構多そうだし。
大きく開いて広範囲に雷光を入れた方が、毒水中の魔獣達をより多く麻痺できるんじゃないかと思う。
……焼けるかどうかは……取り敢えず麻痺させてから考えよう。
先ずは、今の入口から水の中に二発、雷光剣を入れておく。
とば口にいる奴等くらいは麻痺しただろう。
時間稼ぎにはなる。
俺は登ってきた入口から、壁伝いに階段を作る。
思っていたより壁の岩は【土類魔法】で操作しやすかった。
強化を掛けながら階段を作って壁伝いに上り、部屋の半分くらいの高さの壁を少し掘って踊り場のような、ある程度の広さのある場所を作った。
そして、『土類鑑定』で床を視ていく。
薄い場所はないか?
脆そうな箇所は?
どうやらこの部屋の中心部から奥の方にかけ、斜めに沈み始める辺りが一番薄く岩が脆そうだ。
なるべく部屋の真ん中に集中して、『炎熱の方陣』で魔法を浴びせていく。
この『炎熱の方陣』を手に入れた時、岩に放ったこの魔法で大岩がボロボロに崩れたのを思い出したのだ。
魔虫を焼くために広く、遠くまでを意識して使っていたが、今はより狭く火力を集中するように魔法を一カ所にぶつけるように放つ。
床は段々と赤黒く、そして緑の炎はどんどんと下へ下へと熱を伝えていく。
一度炎を止め、魔法で岩を砕くように操作するとかなり深くまで穴が開いた。
よし、もう少し繰り返してみよう。
三回ほど繰り返したところで、ひと休み。
干し肉と水、そしていくつかの菓子を食べて一息つく。
もう一度……と、立ち上がった時にぼこんっ! と、部屋の真ん中に亀裂が入り、岩の塊がそのまま水の中に落ちていくのが見えた。
そして次々と、部屋の半分くらいの床が崩落して大きな池のような水面が現れた。
やった、抜けた!
しかもかなり大きく開いたぞ!
すかさず水面に向かって二回、雷光剣を放った。
水中を雷が駆け回るように、きつい光を溢れさせる。
その眩しい輝きの中で、ぷかり、と水から大きな塊が二つ、浮いてきた。
ぞわわわわわーっと、あの『沼』の恐怖の感情が甦ってきた。
蛇、である。
馬鹿でかい、魔熊を締め上げるに充分すぎるほどの大蛇が二匹……そして、無数の毒々しい斑模様の小蛇が水面を埋め尽くして浮いている。
無理だ、これは、絶対に無理な奴だっ!
俺は泣きそうになるのを抑えつつ、炎熱魔法をぶっ放した。
蛇の身体の殆どは水の中だというのに!
炎が蛇の体内を巡り、水面を走り、浮いてきた全ての蛇を焼き尽くすまで大した時間は掛からなかった。
この炎……異常すぎる……
水で消えない炎って、何?
だが、助かった。
蛇どもは、悉く塵となって消え去った。
あんな気持ち悪いものの確認部位なんて、絶対要らない……
どんなに高額だったとしても、触りたくない!
水を全て浄化して毒を消し、鑑定しても『清水』となったところで改めて魔力探知。
ふぅ、中央の地中に何か埋まっている反応があるだけだ。
だが『浄化の方陣』で、五回も魔法をかけないと綺麗にならなかったのは初めてだ……
方陣札を多めに作っておいて、助かったな。
でもちょっと、摘み食いしておこう……あ、ココア味だ。
菓子をつまみつつ、水中の魔力を鑑定していく。
良かった……もう蛇はいないみたいだぞ!
流石に、浮いてこなかった蛇までは焼けないだろうからな。
この迷宮、最悪だった……
でもあいつが水から上がって来なくて、ほんっっっっっとうに良かった!
外套やら、水を吸いそうな上着を全て収納して水に潜る。
まずは記章をもらってから水から上がり、魔力反応のあった辺りに【土類魔法】で掘り起こすように操作する。
何か出て来たな……随分小さいが……なんだこれ?
潜ってそいつを手に取ると、片手で握れるほどの果実のような塊。
でも、絶対に自然の物ではない加工品。
丸い穴の開いた部品が付いていて、取っ手もあるのだが何に使われるものか全く解らない。
水から上がってゆっくり見よう、と階段の上の踊り場まで来た時に、うっかり手を滑らせてしまった。
うわ、水の中に落としちまう!
慌てて指で引っかけた丸い穴。
すぽん、と指に掛けた部品が抜け、本体は水の中へと落ちてしまった。
しまった、もう一回取りに行かなくては……と思った瞬間。
どーーーーーーぉぉぉん!
爆音と共に、水が、爆ぜた。
なんだ?
何があった?
目の前の、池のように溜まっていた水が渦巻いている。
そして轟音と共に爆ぜ散った水は、全てその渦へと再度降り注ぎ吸い込まれるようにして消えた。
そう、更に『下』へと流れて行ったのだ。
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