第69話 ダフト-1
ダフトはカースから北西に行った、ふたつほど先の町。
昼にひとつ手前の町を出れば、夕刻までにはダフトに着く。
手前の町で休憩しても良かったのだが、カバロの調子がかなり良かったのでそのまま通過してダフトへと向かった。
ラウルクが、きちんと世話をしていてくれたおかげだろう。
ダフトには夕刻より随分前に辿り着くことができ、いい宿が手配できた。
カバロが気に入った厩舎のある宿を選んだのだが。
上級迷宮に入るなら、また何日か預けることになるから俺の居心地より厩舎がいい方が安心だ。
その宿の女将にその話をしたら、やたらと機嫌が良くなった。
「あんたの馬は、見る目があるねぇ! うちの厩舎はこのダフトでも一番さ! もちろん、ちゃーんと客室の方だっていい部屋だから安心おしよ!」
「そうか。助かる。ダフトには四基も上級があるんだな」
「ああ、そうさ。だから長期間いる冒険者達は、安い宿にばっかり泊まりたがるけどね。繰り返し迷宮に入るなら、いい宿じゃないと疲れなんかとれないよ。食事だって、全然違うんだから!」
女将が豪語するだけあって、その宿での食事は随分と旨かった。
リントの味付けに似ているし、香辛料も結構効いている。
うん。
いい宿に入れて良かった。
ダフトの近くは、上級迷宮が多いだけでなく中級の数も多い。
人気のある迷宮は繰り返し多くの奴等が入っているにもかかわらず、毎回かなりいい魔具が手に入るらしい。
宿の女将の話によるとここらの迷宮は一階層あたりの分岐がかなり多く、浅い階層でも多くの小部屋があるようだ。
それぞれの小部屋で魔獣達が小さいながらも魔力を溜め込んだ物を至る所に埋めているので、一階層あたりの各部屋に魔具があることが多いのだとか。
「踏破が目的だともの凄く大変だけど、魔具集めがしやすいからね。それに、十階層までは殆ど魔虫がいなくて、魔獣も大きい物が出るのは二十階層以降だけなんだよ」
浅い階層にいる虫型の
しかもこいつ等は人が側を通ったくらいでは襲って来ず、巣に攻撃されて初めて飛びかかってくるらしい。
「魔茸蟻は群れの一番端に火を付けるだけで、巣の中全部を燃やしちまえるから一番楽だって言ってたよ。価値の高い石を沢山巣に溜め込んでることがあるみたいだから、魔茸蟻だけを狙う奴らもいるくらいだ」
でもそんな奴等はただの石拾いさ、と女将は吐き捨てるように言う。
「冒険者なら、迷宮の踏破を目指すものだよ。途中に転がってる程度のもので満足しているなんて、情けないったら」
目的は人それぞれだ。
金が欲しいのか、楽をして稼ぎたいのか、刺激が欲しいのか、栄誉が欲しいのか。
どれも他人に、とやかく言われる筋合いはない。
ましてや、迷宮に潜りもしない者が、自分と考え方が違う『冒険者』を否定するようなことを聞くのは不快だ。
まぁ、食事が旨くて、寝床で休めるだけで宿としては充分だ。
嫌われても好かれたとしても、多分あまりいい気分ではなさそうだ。
宿にいる人とは深く関わらないようにしよう……と、必要な情報だけを聞くことにした。
なんでだろうな。
昔はそうやって生きていたはずなのに、なんで、少し悲しくなるんだろう。
翌日、様子見にとカバロと『ダフト上級七番・黒迷宮』へやってきた。
途中で魔獣も出ず、通りにくい地形がある訳でもないのだが全く風や日差しを避けられる場所がない。
ぶっ続けで半日以上馬を走らせて、やっと迷宮への入口が見える。
これは確かに辿り着いてすぐに迷宮に入るっていうのは、体力的に厳しいだろう。
周りには特に待機している冒険者はいないのだが、一応門番に順番待ちをしている奴がいるかだけは確認しておく。
「あー、いねぇ、いねぇ!」
「ここは、全然人気がないからな」
「ダフトの迷宮は、どこも浅い階層でいい物が出るんだろう?」
「中級は、な。だから、稼ぐならみーんな中級に行っちまう。それに、上級でも魔具が目的なら、ここじゃ良いものは出ないさ」
「一年前に大人数の連団が、根こそぎ持って行っちまったからなぁ。三十階層以上まで潜らないと、多分何もない。浅い階層にいい魔具が出るようになるにゃ、あと十年はかかる」
そうなのか。
それは俺にとっては、特に問題がないことだ。
「ここも大物の魔獣がいるのは、二十階層以下なのか?」
「多分な。一年前に確認されているのは二十五階層から
魔熊……か。
ここの迷宮は四十一階層だから、下の方には魔熊が苦手な魔獣でもいるのか?
それとも、更に大きい個体の魔熊か……
どっちにしても結構大変そうだ。
俺はカバロと一緒に方陣門でダフトへと戻り、必要そうな準備をしておく事にした。
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