第6話 強力な方陣を捜せ-3

 あれから三軒あった魔具屋を全部回ったが、残念ながら攻撃に適した新しい方陣札を売っている店はなかった。

 元々、方陣札は強化とか耐性の補助系魔法が多いから仕方ないか……


 次に確認するのは、教会の司書室だ。

 教会には古い本が置かれていることがあるから、たまにいい方陣が見つかったりする。

 連団に入ってからは、マグレットが大嫌いだって言ってて、教会に近寄りもしなかったんだよな。

 気持ちは、解るが。

 神官なんて、ろくな奴がいないのはどの国もそう変わらないだろう。


 ただ教会の本に方陣があったとしても、魔法師が『使える方陣』に描き替える前の物だから、一般的には魔法として発動はできない。

 ……試したことはないが、もしかしたら俺にだったら……【方陣魔法】のある俺にだったら、使えるんじゃないかと思った。

 俺が親父にもらった『幸運を呼ぶ方陣』は、全然使えねぇけど。


 教会に着くと、神官が司書室に入るには金が必要だとか言いやがる。

 マイウリアの教会では、金なんか払わなくても司書室に入ることはできた。

 その上、監視が付くという。

「ここの本は、大変貴重ですから……念のため、でございますよ」


 ガエスタの神官とか貴族って奴等は、平民を信用していない。

 盗んで売り飛ばすとでも思っているのだろう。

 まぁいい。

 監視付きなら、変な疑いをかけられることもないだろうし。



 司書室には、誰もいなかった。

 俺は監視役の神官と、多分雇われ用心棒と思われる男と一緒に司書室に入り、魔法関連の本の置いてある棚で片っ端から本を開いていく。

 方陣がいくつかあったが、なんの方陣か判らないものばかりだった。

 一応、記憶だけはしていくか……


 そして何冊目かの本を開いた時、俺はやっと目当ての方陣を見つけることができた。

『炎熱の方陣』と説明の書かれた方陣だ!

 方陣に使われている呪文の文字は全く読めないから、古代文字なのだろう。

 いや、皇国文字って奴かもしれない。


 ガエスタとマイウリアは発音が違うだけで、ほぼ同じ文字を使っている。

 まぁ、ガエスタの公用語は皇国語だから、新しい本なんかは皇国語ばかりだが。

 しかし、イグロスト皇国は現在使われている皇国語とは別に、魔法のための独自の文字があるという話だ。

 その文字のことを、ガエスタでは『皇国文字』と呼んでいる。


「神官殿、この字は皇国文字かい?」

 俺がいきなり問いかけたからか、神官は酷く慌てた様子だ。

 だが、すぐに気を取り直して俺の手元を覗き込み、そうだ、とだけ言って離れた。

 平民には近付きたくもないってか。


 俺はその方陣を記憶し、教会を後にした。

 手に入れた新しい方陣がどこまで使えるか、試してみなくちゃな!

 そして、そのまま町外れの森に向かおうかと思ったが、一度冒険者組合に顔を出した。

 どうせなら何か依頼を受けて、森に入った方がいいだろう。


 お、丁度いいのがあったぞ。

 森で食肉用の獣を狩って来る依頼だ。

 この辺にいるのは黒シシといわれる、小さめの獣だ。

 赤シシほど良い肉ではないが、じっくり煮込むと旨い出汁がとれる。

 まぁ……黒シシ肉自体は、硬くてあんまり旨くはない。


 森の中を少し奥へと歩くと、丘があり周りより少しだけ開けている。

『炎熱の方陣』を左手の手袋に書き、少し先にある岩を指差す。

 方陣に魔力を満たし、息を整えてから心の中で『放て!』と唱える。


 ぼうっ!


 炎の線が、岩めがけて走る。

 やっぱり使えた!

【方陣魔法】があれば、魔法師が描き替えたものでなくても発動できるんだ!


 ただ……ちょっと細くて炎もそんなに強くはなさそうだ。

 全然、赤くないんだよな。

 どっちかというと……なんだか、緑っぽい。

 見たことのない炎だが、この魔法、単なる炎じゃないのか?


 焼けた岩を見ると、かなり真っ黒に……

 ああっ!

 く、崩れたっ?

 もしかして、かなり熱が高いのだろうか?

 普通の炎魔法と、熱が違う魔法なんてあったっけ?


 もしかしたら、これはかなり強い魔法なのではないだろうか。

 俺は興奮を抑えきれなかった。


 その後、見つけた黒シシに試してみたら……表面はそんなに焼けていないものの、内部の肉がカスカスになるほど焼けきってしまい、『食肉』にはならなくなってしまった……

 だが、たった一撃で、全く血を流すこともなく、体内を焼き切ってしまうほどの炎熱!


 俺は、最高の必殺魔法を手に入れた。

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