緑炎の方陣魔剣士

磯風

第1話 裏切りで始まるひとり旅-1

 俺は今、身に覚えのない罪で旅の途中の町、セイストの警備隊屯所の牢に入れられている。

 とある冒険者の装備を奪った上に、怪我を負わせた……らしい。

 なんとも無理のある設定だ。


 俺は……お世辞にも強いとは言い難い。

 自分で言うと自己嫌悪で泣きたくなるが、正直、弱いのである。

 剣士としても、魔法師としても中途半端で、技能や魔法の練度がなかなか上がりにくいのだ。

 そのせいか殆ど戦闘に参加できず、ろくに経験も積めず、依頼の達成率も悪くて段位は初心者の頃から全く上がっていない。


 俺が傷つけたと言われている冒険者は、銅段の俺より段位が上の銀段二位。

 魔法も剣もかなうわけがない。

 それなのに、俺が捕まっているのは『目撃者』がいたためだ。

 つまり、その目撃者とやらが嘘を吐いている訳だが……それが、昨日まで一緒に旅をしてきた五人だというのだから、泣くに泣けない。


「裏切られたってことかぁ」



 冒険者になったのは、成人してすぐ。

 俺が生まれた南方の国マイウリアは革命の噂やら、不穏なことが多くなっていて成人すると同時に冒険者組合に登録した。

 そしてそのまま出国し、このガエスタ王国に来た。


 運良く入れてもらえた最初の連団は、あまりにしょぼい剣技と魔法で十日もしないうちにクビになった。

 その後、一年半くらいはひとりでコツコツと訓練をしたり、簡単な採取などの依頼をこなして食いつないでいた。


 俺が小さい頃、冒険者だった親父に『これは幸運が舞い込む方陣だぞ』と言われて教えてもらったものがある。

 方陣が『幸運』を運んでくるなんてのは信じてはいなかったが、細々とではあるが仕事はあったし食い詰めるなんてこともなかったのは、もしかしたらこの方陣のおかげかも、なんて思ったりしていた。


 魔獣のこととか、迷宮のこと、そして少しでもいろいろな知識を得るために、教会の司書室なんかで勉強したりもした。

 親父から聞いて知っていたことだけでは、足りなかったのは親父の教えてくれるようなことができるほどの実力がなかったからかもしれないが。

 マイウリアでは平民の子供達への教育など整っていなかったし、満足な知識を得ることは殆どできなかったが、ガエスタでは『無知』はただ危険なだけだ。


 親父に教わって公用語になっている皇国語の読み書きはある程度できるようになっていたが、未だに北方諸国の言葉は発音などに少し不自由する。

 特に皇国語の発音は苦労するが、皇国語がどの国でも通じる言葉だからかなり頑張ってなんとか使えるようにはなった。


 戦闘系の魔法を全然持っていなかったせいもあって、なかなかどの連団にも入れてはもらえなかった。

 だが、やっと一緒に旅をしようと言ってくれた奴等が現れたのだ。

 オーデン、リーチェス、マグレット、ナスティ、ニルエスの五人は剣も魔法のそこそこ……という、俺よりひとつ上『銀段四位』の冒険者達だった。

 嬉しくて、彼等の役に立てるならと、すすんで雑用も荷物持ちもこなしてきた。


 その内、彼等はめきめきと実力を付け、あっという間に銀段三位に上がったが、俺は……弱すぎて上がれなかった。

 その後、多少理不尽なことを言われる時もあったが、俺が一番段位が低かったし、最初の半年くらいは要求に応えられるように働くだけだった。


 彼等は期待されていたのか、出資してくれる人も多かったみたいだ。

 いつも『支援してくれる人から貰ってんだよ』と、リーチェスは酒を買って笑っていた。

 オーデンは子供好きなのか、随分と小さい子達の面倒をみてあげていたみたいだった。

 ニルエスは交渉事が上手いみたいで、旅の途中の森などで採取した薬草や果物なんかを高く売って稼いでいたようだ。


 ただ、彼等はやたらと馬車を借りようとするので、それだけは反対していた。

 だって返しに行くのは、絶対に俺だ。

 その上みんな結構雑に扱うだろうから、壊れたりしたら修理代を請求されるだろうし……俺が払わされるのが目に見えていたから。


 一緒に旅をしたのは一年に満たないくらいだが、決して悪い関係ではなかったはずだ。

 俺は、俺にできることを精一杯していたつもりだ。

 彼等と一緒に旅を始めてすぐに『支援技能』と呼ばれるもののいくつかを獲得したので、その系統の方陣が強力で効率よく使えるようになった。

 そのせいか【収納魔法】が格段に多くの荷物を運べるようになり、【強化魔法】も強くなったから疲れにくくなっていた。


 持っている魔法のことを話してはいなかったけど、その魔法で最近は戦闘の支援などもしていた。

 戦闘時にすぐに発動できるように毎日準備していたから、ついでにやっておけとばかりに旅の道具や武器の手入れまでやらされたが……

 だが、それすらも彼等にとっては『雑用』だったのだろう。


「そうか、雑用係だったから、いらなくなったってことなのか」


 でもそれなら、ただ単に連団契約を解消すればいいだけだ。

 ……いや、その解約金を惜しんだのか。


 契約違反していない者との連団を指定した期限前に解約するには、解約を言いだした方から違約金を支払わなくちゃいけない。

 俺の契約期限は二年間だった。

 でも、牢に入れられるような『犯罪者』であるならば、いつでも冒険者組合で解雇を言い渡せる。


 あいつ等は俺とこれ以上、旅をしたくなかったんだろう……足手まといだから。


 そう思い至って更に凹んでいた時に警備隊員のひとりに釈放だと言われ、大した説明もされずに外へ放り出された。

 怪我をしたという冒険者が証言した『犯人』と、俺が一致しないと言うのだ。

 当たり前だ。

 やってないし。

 そして、銅段如きにやられたという『汚名』を被りたくないという理由で、絶対に俺ではあり得ないと被害者本人が否定したのだ。


 とにかく、牢から出られたのはよかったんだが、宿は既に引き払われていて俺が泊まれる部屋はなくなっていた。

 ……こんなことなら、あの牢に泊まってきた方が楽だったかも。


 宿に置いていた俺の装備や用意していた道具類などもすっからかん。

 いつもの『準備』もする前だったから、本当に俺の力など必要ないという判断なのだろう。

 大して価値のあるものじゃないし、持たされていたあいつらの荷物が半分くらいはあったからいいんだがどっちが盗人かわかんねぇな。

 さて……どうしよう……


「あ、待ってください! ガイエスさん!」

 とぼとぼ歩き出した俺を止めたのは、宿屋の娘だ。


「あの……皆さんが出て行った時に、これだけ持って行かなかったので……」

 それは、俺の剣と外套だった。

 そういえば、宿に入る時に外套を洗って欲しいと預けたんだ。

 でも、剣はどうして残っていたんだ?


「これだけ、部屋に残っていたんです。忘れ物かと思って……」

「そうか、ありがとう。助かったよ」


 まぁ、この剣は随分使い込んでるし、特にいい剣というわけでもないから売れないと判断して置いて行ったのかもな。

 俺と一緒に見捨てられたってことだ。



 ********


『◯◯.5』の話数は、間話です。

 間話は気分のムカつくような表現、残酷な表現などをかなり含んでおりますのでご注意ください。

 苦手に方は間話分はすっ飛ばして、本編のみをお読みくださってもストーリー上は問題ないです。

 間話はかなり判りづらい表現を態としている回もあり、イラッとされるかもしれません。


 ……嫌な奴とか犯罪者の行動や表現って……書いてても自分では理解できないので難しいですね……


 どうぞよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る