第31話

 アルミーレ王国 王都。

 この世界の超大国として君臨している大国の象徴たる王宮は荘厳にして壮大。

 王宮の最上部に居れば、王都全てをその視界に収めることが可能である。


「……」

 

 そんな王宮の最上階に一人の麗しき少女……この国で最も尊き血であり、この国で最も畏怖を集めている第二王女殿下が存在していた。


「マキナ様は完璧でした。魔族を上手く操って、鍵の作成を完了させ、その一つを自分の手元に置いておくことで、私の注意をそこに集めて拘束する。その間に自分は多くの騎士、貴族を様々な手でもって行動不能にして、私の駒を減らしていく勇者という不確定要素を徹底的に抑え、私の妨害も全て無意味……唯一驚かすことが出来たのは勇者の覚醒のみ……あの膨大な力を行使すべくただの肉塊にしたまでは良かったのですが……結局封印されて終わりましたし。元々持っている手札の数も違いますし、結局私はマキナ様の眼中に入ることができませんでした」


 巨大な魔法陣によって覆われている王都を見ながらラーニャは呟く。

 アルミーレ王国という国家の歴史は、小国から……この小さな王都のみが領土という小国から始まる。


「ですが、私はマキナ様が思うほど無知ではないのです」

 

 ラーニャがゆっくりと振り返る。


「これが私の答えです。全てを知らぬふりをして……全てを利用する。既に魔法陣への干渉は完了済み。この魔法は魔王を復活するためでなく、魔王を殺すために使われる」


 ラーニャは何もないところに向けて話す。


「僕は君が思うほど他人を信用していないんだよ」

 

 暗がり。

 

「……?」

 

 何もないはずの暗がりから一人の少年が……今まさに上位魔族が行おうとしている魔王復活の時を目の前で見ているはずのマキナがラーニャの前にその姿を現す。

 

「そして、僕はしっかりと君を見ている。最初から破綻しているんだよ。君の計画は」


 ラーニャの計画。

 それは全て、己がマキナという一人の天才に侮られているという仮定から始まっている。

 自分という存在が、魔族にも気づかず、マキナが何をしようとしているのかもあいまいなまま、情報を集めながらマキナの邪魔をする振りをして、己を侮らせる。

 全ては最期の最期で使われる魔王復活の大魔法を利用して、長らく封印されてその力を大きく落としている魔王を殺すために。


「……ッ!?」


 ラーニャの視界が朱色に染まる。

 

「僕は誰かを侮ったことなんて一度もない」

 

 マキナという天才は、決して他人を信用せず、常に他者を過大評価し続ける。

 最初からマキナは事実関係なしにラーニャは全てを知っているという仮定のもとに動いていた。

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