第5話
「えぇ……わかったわ。あなたの説明は実にわかりやすかった。えぇ……わかりやすかったわ」
とある喫茶店のテラス席に座っているテレシアが美しい貴族の娘らしい洗練された作法で紅茶を飲みながら、自分の斜め前に座っているレミアへと言葉を話す。
視線はずっととあるところで固定されている。
「は、はい……」
それに対してレミアは死んだような表情を浮かべながら頷く。
テレシアは公爵令嬢なのだ。
貴族の中で最も尊き身分の一族であり、王族でさえも無視できない一家の一人娘なのだ。
レミアなんて言う一市民を消すくらい造作もないだろう。
友達という立場たに立てている現状がおかしいのだ。
レミアはようやくそれを思い出した。
「……」
第二王女殿下はただただ無言で視線を向け続けている。
それがレミアにとって何もよりも怖かった。いきなりアレナとアリエスを処刑しろッ!なんて言わないだろうか……?
二人の視線の先。
その視線の先にいるのは楽しそうに笑っている三人の姿。
アリエスが二人の間に挟まり、その両手を繋がれてこれ以上ないまでの笑顔を浮かべている。
どこからどう見ても買い物を楽しんでいる三人家族にしか見えないだろう。
「……近いわッ!!!……!?あ、あーん!?何をしているの!?本当にあの二人の間に恋愛感情はないの!?」
今、マキナたちは三人で昼食をとっているところだった。
二人の距離はとても近く、互いの料理をあーんして食べさせるというカップル以外しないであろう行為を行っていた。
レミアは胃の中のものを逆流しそうだった。
目の前にある高い食べ物の数々に手を付ける事ができない。
レミアは呪う。楽しそうに笑っている彼らを。地獄であるこちらと違い、幸せ一杯の雰囲気を作っている彼らを。
「……」
「な、ないよ!あの二人はどこまで行ってもズレているから……ただただ素だよ!」
レミアは呪う。呑気に楽しんでいる二人を
「あ、あ、あ、頭おかしいんじゃないの!?平民の貞操観念はどうなっているの!?」
「……結構ゆるいけどね……普通に村でシテいる人とかもいるし……多分マキナも……」
二人には聞こえないようにレミアがボソリと呟く。
ちなみにだが、レミアは童貞ではない。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!?」
「……」
「……ぁあ」
レミアは自分の胃が擦り切れていくのを感じる。レミアたちは三人もまた、マキナたち三人を追うために学校を早退していた。
レミアはノコノコついてきてしまった自分を呪う。あそこで何がなんでも拒否するべきだったのだ。
「……ぁあ」
ゲームの主人公として活躍し、女の子に囲まれてキャッキャうふうふするはすだったレミアは、己の残酷な運命を呪った。
彼の苦労人としての歩みはまだ始まったばかりだ。
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