第47話

「よし、と」

 

 一人になった僕は自分の体を伸ばして、息を吐く。

 これで僕は自由。

 ……まぁ、とは言っても別にやることないんだけどね。

 調査とか、物品の収集だとか。

 必要なことは基本的に全てアルファたちに任せているため、僕がやらなくちゃいけないことはない。


「んー。とりあえずはアレナの方に行こうかなぁ……彼女がどう動くちょっと気になるし」

 

 僕がテレシアと別れた理由は鬼の仮面を被った男たちと接敵したくなかったからだ。

 

「ドロンってね」

 

 僕はテレシアの元へと移動を開始した。


 ■■■■■

 

「あっ……あっ……あっ……どうしよう……どうしよう……どうしよう……!」

 

 瞳に涙を浮かべて戸惑い、これ以上ないまでに狼狽しているテレシア。


「ひっく……ひっく……ひっく。うぇん。……マキナぁ」

 

 涙を浮かべながら僕の名前を呼んでいるテレシアを上から眺める。

 今の僕は全力で自分の気配を消している状態。

 誰かに見つかることはまずないだろう。相手が魔王様でもない限り。


「……ひっく、ひっく」

 

 テレシアは泣いてばかりで何か行動しようとはしない。

 ……思ったよりも使えない子かもしれない。この子。


「探さなきゃ……探さなきゃ……!」

 

 テレシアは立ち上がって僕が引きずられた跡、血の跡を辿って走り出す。

 僕の名前を呟き続けながら。


「あっ……」

 

 僕はそんなテレシアを見て呆然と声を上げる。

 走っているテレシアの先。その先には鬼の仮面を被った男が。

 便秘だったのか、さっきまでトイレにずっとこもっていた男がいるのだ。

 必死の形相で走っている男がいるのだ。

 このままだとテレシアはそいつと接敵してしまうだろう。

 辞めてあげてほしい。この男は、多分トイレで遅刻しちゃっているんだと思うから、戦いになって時間を無駄に浪費させないで上げてほしい。


「……ぇ」


「ッ!?……お前はッ!」

 

 そんな僕の願いとは裏腹に一切の容赦なく、当たり前のようにテレシアと鬼の仮面の男が接敵する。


「なんで!?」

 

 慌てて戦闘態勢に入る鬼の仮面の男。


「あっ……」


 それに対して腰が抜けてしまったのか、そのまま倒れてしまったテレシア。


「あれ?」


「あっ……あっ……」

 

 逃げるように後ずさるテレシア。

 決して戦えるようには見えない。


「まぁ、良い。このままお前を連れていって。遅刻の言い訳に……!」

 

 そんなテレシアに鬼の仮面を被った男は一切の容赦なく手刀を落とし、気絶させた。


「よし……ッ!」

 

 鬼の仮面を被った男はテレシアを掴んで持ち上げて、必死の形相で走り出した。

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