鏡の精は、かませな悪役令息の平穏を望む

真山空

プロローグ

 その日は、泣きたくなるほど散々な日だった。

 なにが散々かって、私の推しがよりにもよって、私の誕生日に死んだのだ。


 美麗作画だと評価が高いアニメで、期待を裏切らない綺麗作画で推しは爆発四散してチーン、合掌。


 あ・り・え・な・い!


 せめて主人公と壮絶な戦いの末とかだったら、まだマシだ。敵サイドだからと涙を呑んで彼の決断を尊重しただろう。

 だがしかし、現実は非情だった。

 敵キャラの彼は、主人公たちの手にかかることもなく、寝返りキャラとボスとの壮絶な争いの巻き添えで死んでしまった。

 

 そう、ただの、巻き添えで!! 

 それに対して、両者コメントなし!!

 扱い、雑!!


 灰になった私を可哀想に思ったのか、幼馴染みが飲みに行こうと誘ってくれた。

 誕生日が悪夢になった私の気持ちを察してか、おたおめ的な言葉は一切無く、むしろ生まれた日には触れないで、ひたすら飲みにつきあってくれたのだ。


 私は幼馴染み相手に、ガチ泣きしながら延々と推しキャラ――ソーマ様への愛を語り、続きは家で……となったのだが……。


 酔っ払ってたのが悪かったのか、深夜アニメをリアル視聴し多大な精神ダメージを負ったまま一睡もしてなかったのが悪かったのか――それとも、全てか。


 居酒屋からの帰り道。

 私は、うっかり駅の階段を踏み外した。


 体が重力に引っ張られる感覚。

 直感。


(あ、死んだ)


 驚いた顔の幼馴染みが視界に入った。

 彼女が口を開き、こちらに手を伸ばす。

 なにか言おうとしているけれど、その動作がやけにスローに見え、遠くなる。


 死因が酔っ払って駅の階段を踏み外した末の転落死なんて、笑い話にもならない。


美良子みらこ!」


 ――いや、その名前外で呼ぶのやめて。


 ちょっとコンプレックスな名前を叫ばれて、いつものようにツッコミを入れるタイミングで私の意識は、ブツリと切れた。

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