巫 諏訪野美琴と過ごす日常

諏訪野美琴

第1話

諏訪野美琴は自覚している過去の記憶と、現実として目の前に現れる苦難。

幼い頃から考える「生きる」という部分に葛藤していた。

なぜ、自分に課せられるのか。

なぜ、生きなければいけないのか。

そんな葛藤を、魂のバグだと説明してくれた存在が現れた。


田辺慎一である。

田辺は美琴が感覚で得た情報を、知識として説明してくれた。時には宇宙の成り立ちや法則に至るまで、科学では説明つかないようなジャンルまで多岐に及んだ。

そして感じた。

これまでの全てに、意味が隠されていること。

これらはまだまだ序章に過ぎないと言うことも含め悟った。


ある意味、美琴が経験してきた数ある霊障の中でも極めて異質であり、周りをも巻き込んでゆくきっかけとなった出来事こそ、佐藤さんの出来事であった。

それは超現実主義者であった、是宮将征の人生を巻き込んだ壮大な物語となってゆく。


回想

2020年10月30日夜。

美琴からLINEが入る。

仕事帰りのLINE通話らしい。

「なんでだか、悲しいんだ…」

「死にたくなかったんだ…」と泣きながら言う。

踏み切りの遮断機の音がし焦る。

いつもと何かが違う。俺の中で警鐘が鳴る。

とにかく

「家にはいってゆっくりしてください」となだめた。


しばらくして電話すると、電話に出た。

そして「ここ、どこ?」という。


多重人格かと思い、「どならですか?名前をおしてください」といった。

「…さとう」と。

「おいくつですか?」

「78歳」

「仕事はなにをされてますか?」

「妻の介護」←うまのかいぼう?と聞き間違えて、メモした。獣医か?精肉の方か?

とにかく焦っていた。胸騒ぎしかしない。

そんな俺を知ってか、たたみかけるように始まった。

「死にたくなかった…」

「留美子を愛していた」

「ここにいれば、留美子のそばにいれる」と言う。


「神棚ありますよね!拝んでください」

「なにを拝む?」

「あなたが成仏できるように拝んでください あなたは、ここにいてはいけない」

少し、言葉が荒くなる。

心霊番組の影響もあり、強気で行かねばと思っていた。

「わかってるんです。でも、ここにいれば留美子のそばにいれる」

「その人に体を返してください。自分には力がありませんが、かならず成仏できるようにその方に拝んでもらうので、体を返してください」

そんなやり取りの末、

「わかりました」

そんな言葉を残して、佐藤さんと名乗る方は消え、本来の美琴に戻っていた。


そして、翌日仕事終わってから三崎の神社で成仏できるようにと拝んだ。




2020年11月2日 夜 


普段と変わらない日常。

美琴と通話していた。

その中で先日の佐藤さんの話が出た。


神社参拝で託されてきたのかと言われたことが、気にかかり俺は三崎の神社を参拝した。

それでも気になり、何かできる事がなかったのかと自問自答する様になっていた。


そんな夜の会話である。


「佐藤さんがきている気がする」と言う美琴。


え!?

驚きながら、ごく自然に受け入れていた自分に後から不思議と思った。


「こんばんわ、佐藤です」

通話先の空気が一気に変わった。


「佐藤さんは、何故亡くなったのですか?」

俺はまず、死因から聞こうとしていた。

「胸が苦しくなって、気がついた時には誰にも触れず。誰にも声が届かなかった」

長い沈黙の後ポツリと「そして・・・自分が亡くなったと悟ったんだ」

電話の向こうの佐藤さんは静かに語る。


「子供と孫がいるが・・・遠くで暮らしている。

それぞれ生活が精一杯で、大きな古い家に妻と二人で暮らしていた。

妻とたくさん喧嘩をした。妻を介護していて、自分がいるお陰で生活できているようなおごった考えをしたこともあった。

妻のちょっとした言動に腹をたて喧嘩もした。


周りの方々が亡くなっていく中、お互い支えあっていかねばと、

喧嘩しながらも二人の時間がずっと、続くと思っていた。

しかし、あの時(亡くなるとき)、妻を心配させて苦しめてしまった。 


なぜ、生きていた時、もっと妻にやさしくしなかったんだろう

やさしい言葉をかけれなかったんだろう

もっと沢山綺麗な景色を見せに連れて行けなかったのかと。今なら思う。


死後、いかに生きている時の、今という時間が大事だったか、妻が大事だったかを知った。

それが後悔だった」


しかし、光のなかにいる烏帽子を被った着物姿の男で名前は…にしき?と言う方に

妻のそばに居たのでは周りの方々に迷惑がかかるので、光の道を行きなさいといわれた」


そう言われて、初めて自分の中でいつも聞き流していた「にしき」と言うワードを

あるがままに受け入れていた自分がいた。

それを否定するのではなく、ただ事実として受け入れようとしていた。


仕事があるうちはいい、例えどんな仕事でも一生懸命尽くしなさい。

嫌でも、仕事ができなくなる時が来るのだから。


できなくなる時を迎えて、初めて気づくものなのだから

自分にとって、大切なものは何かということに…


そんな仕事や人生について

一時間五十分程度話し

最後に

「これから妻の顔を見に行ってから次へ進みます。

またいつかお話いたしましょう」

佐藤さんはそう言い残し

そしてしばらくして通話終了を押された。


以上、是宮の日記より。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る