序章
1 アイシャの回顧
あの日、彼女に出会わなければ。アイシャは生涯で一歩たりとも、水が溢れるあの街から足を踏み出すことはなかったのだろう。
砂嵐が肌を打つ痛みや、搾りたての
広大で絢爛で、しかし窮屈で陰険な女の園。あの場所で順当に成長をしたのなら、淑やかで気品に溢れた貴婦人になっていたのだろうか。想像するだけでも笑いが込み上げてくるほど、今のアイシャとはかけ離れている。
煌びやかな衣を纏い袖をたなびかせ、毎晩香油で髪を梳かし、売り物のように飾り立てられて、誰かへ褒美として差し出される運命。
生来臆病な気質のアイシャのことである。何も知らずに育ったならば、窮屈な生涯を喜んで受け入れただろう。しかし、世界の厳しさと美しさを知った今となれば、手足を縛られたかのように不自由な人生を歩むくらいなら、砂漠の真ん中で渇きに命を落とす方がまだましだと思えるのである。
あの日、彼女と出会わなければ。
もしもの世界に思いを馳せる度、アイシャは心から思うのだ。まだ何もわからぬ幼子であった頃、意図せず迷い込んだ深き泉の側で。
そして、その出会いが、彼女の運命を狂わせたのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます